物理学ミニマム(一般相対論)1
§9 一般相対論
原理9.1 相対性原理
非慣性系においても物理の本質は不変(共変)である。
注9.2
「座標変換に対して物理法則を表す方程式はきれいに変換する」ということである。
特殊相対論では、座標変換として、慣性系を慣性系にうつす変換(ローレンツ変換)しか
考えなかったが、ここでは一般的な座標変換を考える。
原理9.3 等価原理
重力の作用と加速度による作用に本質的な差異はなく、
どのような重力も一点に限るなら座標を選ぶことで消すことができる。
注9.4
「座標を選ぶ」とは「座標変換する」ということである。
等価原理は「エレベータの中では見かけ上重力が消える(ことがある)」という話である。
「一点に限る」とは、エレベータをどう作っても地球中の(あるいは宇宙中の)重力が
見えなくなるようにできないということである。
しかし、物理的に「一点」と思えるほどの範囲(たとえば、エレベータ内の空間は
「一点」である)なら打ち消せるのである。
定義9.5 ベクトル
座標変換 に対し、
のように変換するものを反変ベクトルという。
また、
のように変換するものを共変ベクトルという。
変換しないものをスカラー、ベクトルの積のように変換するものをテンソルという。
注9.6
変換というと左辺に変換されたものを書きたくなるが、別に本質ではない。
座標の微分(微小間隔)は反変ベクトルである。
また、スカラー( とする)の座標による微分は共変ベクトルである。
むしろ、これがベクトルの原型である。
2階の反変テンソルなら次のように変換する。
しかし、
なので、 は足が2つあってもテンソルではない。
「ベクトルやテンソルを作る微分」を共変微分という(後述)。
注9.7
特殊相対論では、座標()自体がベクトルだった。
しかし、一般相対論では座標はベクトルではない。
ベクトルなのは座標の微分()である。
定義9.8 世界間隔、計量テンソル
と の世界間隔は
で定義する。
計量テンソル は座標に依存する。
また、 の逆行列を とする。
すなわち、
とする。
注9.9
特殊相対論の素直な拡張であると思う。
一般相対論での相対性原理の表現は「座標変換で世界間隔が不変」となる。
その結果、 は名前の通り(2階の)テンソルである。
テンソルに決まっているのだから、計量テンソルを単に「計量」とよぶことも多い。
ここでもしばしばそうする。
計量はその定義から対称( )である。
計量を使って、反変ベクトルから共変ベクトルを作ること、その逆を作ることができる。
たとえば、 は共変ベクトルになるので、 と書く。
テンソルについても同様である。
反変と共変は入れ替えられるので、しばしば省略する。ここでもそうする。
定義9.10 ガリレイ座標
計量テンソルが
のとき、その座標系をガリレイ的という。
注9.11 平坦な空間、曲がった空間
計量は一般に座標に依る。
全空間にわたって計量テンソルが であるような空間
(あるいは、座標変換でそうできる空間)を平坦な空間という。
平坦でない空間を曲がった空間などという。
等価原理の言っていることは、どのような空間でも、一点だけに限れば、
座標変換でその計量をガリレイ的にできるということである。
「4次元の距離」を示す計量が、その空間を特徴付けているとも言える。
ただし、計量が異なれば異なる空間ということではない。
座標変換によって計量の形は変わるが空間がかわるわけではないからだ。
これは電磁気学のゲージ変換に似ている。
実際、一般相対論は重力の理論であり、計量は重力のポテンシャルと
考えることができる。
(ちなみに、ゲージ変換のゲージとは「計量(器)」などという意味で、
どんぴしゃなのである。歴史的な事情は知らないが。
ただし、計量テンソルの「計量」は英語でメトリックである。)
定義9.12 クリストッフェル記号
ベクトルを だけ平行移動したときの成分の変化を
と書く。
この をクリストッフェル記号という。
また、
とする。
クリストッフェル記号はガリレイ座標では である。
注9.13
「何をもって平行移動というか」である。
たとえば、地球の表面に生きている普通の人は地面を平らだと思っている。
その人が矢印を持って(地面を見ながら)平行移動させるのを
宇宙から見ていると、矢印の向きが変わっていくのがわかるだろう。
それでも「その人にとって矢印の向きは変わってない」かというと、
その人がぐるっとまわって戻ってくれば、矢印の向きは最初と変わっている。
(地球儀の上でやってみよう。)
我々の宇宙も地球の表面のように曲がっているかもしれない。
したがって、まず定義9.12のように考え、相対性原理に従う理論ができれば、
それが正解ということだと思う。
ちなみに、変化量を 、 に比例するようにしているのは
実にリーズナブルだと思う。
ガリレイ座標で となるのは、「ガリレイ座標の空間は曲がっていない」
ということである。
なお、あとで見るように、クリストッフェル記号はテンソルではない。
注9.14
反変ベクトルの変化から共変ベクトルの変化は出せる(もちろん、逆も)。
スカラーは変化しないので、
。
ここで足の名前を付け替えればでる。
定義9.15 共変微分
定理9.16
とすると、共変微分の結果がベクトルやテンソルになる。
(証明)
注9.6で見たように はベクトルである。
は足が2つあるがテンソルではなかった。
しかし、上のように の変換性を定義すると、 となる。
それは計算するだけである。
そこで(たぶん)以下の式を使う。
を微分して、 。□
系9.17
(証明)
最後の式の左辺はテンソルである。
また、着目している点をガリレイ座標に変換すれば、クリストッフェル記号は になる。
ある座標系で のテンソルはどの座標系でも になるから、
最後の式の左辺が、したがって右辺もいつでも ということになる。□
定理9.19
(証明)
テンソルの足の上げ下げは計量テンソルで行える。
また、共変微分でできる足はベクトルの足と縮約を取れる。
(その部分の足はなくなる。)
したがって、
であり、かつ、 。
これは 、すなわち、 。
よって、
足をサイクリックに動かして足したり引いたりすると、
。□
補題9.20 有用な公式
とする。
(証明)
ガリレイ座標では なので、いつでもそうなる。
の余因子 を考えると、 。
ところで、余因子を行列式で割ったものが逆行列だったから、 。
3番目の式の最初の等式は定理9.18より。
3番目の式の2番目の等式は2番目の式より。□
定理9.21 4次元の発散
(証明)
。□
定理9.22 4次元の体積要素
は座標変換に対して不変である。
(証明)
座標変換を考える。
ここで行列式を取ると、ヤコビアン として、 がわかる。
しかるに、 。□
系9.23 ガウスの定理
(証明)
定理9.21を使う。□
原理9.24
自由粒子の作用は
である。
定理9.25
自由粒子の運動は
に従う。
(証明)
であり、
。
よって、
これより、
上の式の2番目の項の と の対称性に注意すれば
。□
注9.26
この方程式の解の描く曲線を測地線という。
自由粒子は測地線のそって飛ぶのである。
この式は と書くことが出きる。
これは「自分が向いている方向にそのまま進む」ということである。
ところで、粒子がいる場所を原点として
という座標変換をすると、定理9.16より、その座標で になる。
つまり、この座標系では粒子は重力は感じないのである。
そのとき、測地線の方程式は簡単になり、その解は となる。
粒子自身は「俺は動いてなどいない。じっとしているだけだ」と言うだろう。
(相対論的には「じっとしている」は「まっすぐ動いている」と同じである。)
(証明)
非相対論的には、質量 の質点が作る重力場は
ポテンシャル で表され、
その重力場中の質量 の粒子のラグランジアンは
である。
このようになるには、計量が
であればよい。実際、
となる。
定理9.28 時間の遅れ
固有時間(自由粒子が感じている時間)を とすると、
ただし、観測者から見ても粒子は止まっているとする。
(証明)
注9.29
定理9.27と定理9.28を合わせると、弱い重力場中では
となる。
は負なので、「重力場中の時計を外から見ると、それはゆっくり進む」ということになる。
(もちろん、この現象は重力が強くても起こる。)
これは、重力場中で発生した光の振動数を、重力場がない(弱い)ところで観測すると、
小さくなっている(振動の回数が減っている)ということである。
つまり、重力場から出てくる光は、赤方に偏移している。
ロケットが地球を出て戻ってくる場合、そのロケットは加速し、減速(それも加速度運動)して
帰ってくるので、そのロケット内には重力場が発生していたことになる(等価原理)。
よって、加速度の大きいロケット内の時間はゆっくり進む。
たとえば、本人が「加速度 で加速し続けている」と感じているロケットから見た座標を
として、地球(静止しているつもりの慣性系)から見た座標を とすると、
それらは次のようになっている。
(証明は略。しかし「ちょっとずつローレンツ変換を繰り返していった感」はある。)
積分すると、
ここで、特に、 がロケットの位置を表す。
地球での時間とロケット内の時間は
で結ばれていて、ロケット内の時間の進み方が遅いがのがわかる。
ところで、座標変換の式を微分すると、
よって、
(ここで、 を使った。)
これは、非相対論的に近似してみれば、
だから、ロケット内の人はいつも「なんだか の重力を受けてるな」と
感じていることを示している。
上のロケットから見た世界の計量から出発して時間の遅れもだせる。
だから、ロケット内の時間の遅れをこの見かけの重力のせいと解釈することが
できると思う。
しかし、いろいろ果てない議論のタネにはなりそうである。
注0.9
学生時代、どの先生だったか、「特殊相対論は名前に反して誰もが使う一般的な理論で、
一般相対論は逆に特殊な人しか使わない特殊な理論だ」とおっしゃったのが印象的だった。
参考書:
場の古典論 ランダウ・リフシッツ
相対論 平川浩正
現代物理学演習 後藤憲一 他