物理学ミニマム(電磁気学)1
§6 電磁気学
定義6.1 場
空間自体を物理的対象と考えたとき、それを場とよぶ。
定義6.2 電磁場、ポテンシャル
実在の空間は唯一つあるのみだが、見方によって「場」のよび方を変える。
「荷電粒子や磁石に作用する空間」は電磁場とよぶ。
電磁場は「4次元時空上で実数値をとるベクトル関数 」で表される。
( とか と略記。)
これをポテンシャルなどという。
注6.3
重力を発生させる場は重力場とよばれる。
電磁力も重力も「我々の空間」の持つ性質であるが、独立した扱いができる
(と考えられる)ので、考えている性質に応じて電磁場とか重力場とよぶ。
それらは別のポテンシャル(とよばれる関数)で表される。
なお、しばしば、ポテンシャル自身を電磁場とよんだり、
それから導かれる や (後述)を電場、磁場などとよぶ。
「電磁場の様子を表すもの」を電磁場とよぶことは自然だと思う。
原理6.4 粒子と電磁場
質量 、電荷 を持つ粒子と電磁場の作用は
と書ける。
ただし、 、 。
第1項、第2項は粒子(のある位置)について積分する。
注6.5 単位系
電磁気学には複数の単位系が存在し、それによって、係数が異なる。
ここではランダウ先生にしたがってガウスの単位系を使っている。
これがメジャーかというと、知らない。
注6.6
添字の上げ下げは適宜計量テンソルで行う。
作用 の3項の不統一ぶりには驚くが、量子論にいくときれいになる。
なお、 を と書く記法がある。
すると、 と書ける。
この節でもこの記法を使いたい。
注6.7 4次元体積要素
は不変量である。
足が全部でているが、その結果、「足がない」のと同じである。
また、たとえば、空間的に回転(ローレンツ変換の一種)した 系の座標で見ると、
4次元体積の座標は、もちろん変わる。
しかし、 の形は変わらないのだから、 系での座標は での座標を
回転に従って変換させればよい。
そのようにしても、「体積の値」は不変である。
ブーストに対しても同じである。
定理6.8 ゲージ不変性
原理6.5の作用は
なる置き換え( は任意の関数)に対して不変。
これをゲージ不変性という。
(証明)
作用の第1項には関係ない。
第2項では に関する部分が全微分になる。
作用内の全微分は表面積分になるが、表面とは無限のかなたであり、
そこでは場の量はみな になると考え、消える。
第3項は が反対称だから、 に関する部分は消える。
定義6.9 電流密度
粒子は「大きさのない質点」だが、数がたくさんある場合、まとめて考え、
その電荷の密度を考えることできる。
その流れを と定義する。
これを電流密度ベクトルなどという。
電流密度は、3次元の量で書くと 。
さらに、電流は だから、 。
注6.10
はベクトルである。
まず、電荷 はローレンツ変換に対して不変である。
( はローレンツ変換(ローレンツの短縮)を受ける。)
よって はベクトル。 もベクトル。
しかるに は不変量だから、 はベクトルとなる。
定理6.11
原理6.4の作用の第2項は、次のように書ける。
(証明)
空間の小部分ごとで と考えられる。
よって、
□
注6.12
原理6.4の書き方と定理6.8の書き方のどちらがよいかと言うと、
当然、個々の粒子に着目する場合は前者、
「電流」のように粒子の個性を考えない場合は後者となる。
定理6.13
とすると、
を の双対テンソルなどという。
(証明)
まじめに展開すると、
。
これは に対して自動的に成り立つ。□
定理6.14
最小作用の原理により
(証明)
のみを変化させ、計算すると、
部分積分をすると、
□
系6.15
(証明)
定理6.14を で微分して、 の反対称性に注意。□
注6.16
系6.14を3次元の量で書くと、 。
これは電荷に対する連続の式である。
定理6.17
粒子の運動方程式は
(証明)
原理6.5の作用で を変化させ、関係するところ(第1項、第2項)を見る。
(粒子の座標 が変化することで粒子が「感じる」 の変化も考慮する。)
部分積分をして を使うと
表面項は消えると考える。
また、 を使い、 をくくりだすと
。□
定義6.18
とおく。
をスカラー・ポテンシャル(電位)、 をベクトル・ポテンシャルなどという。
(4次元の意味でスカラー、ベクトルではない。)
を電場の強さ、 を磁場の強さという。
(これらは、上の定義の各成分をまとめたもの。
3次元のベクトルだが4次元のベクトルではない。)
注6.19
書き直すと、
系6.20 マクスウェルの方程式
(証明)
定理6.13、定理6.14を書き直す。□
系6.21
(証明)
定理6.17を書き直す。
注6.22
電荷を持つ物体や磁石が力を作用させ合うのは、電荷や磁石の存在によって
周りの空間が「ゆがみ」、そのゆがみが別の電荷や磁石に影響を与えると考える。
それが「場」なのだった。
実際に力を及ぼす場は、電場や磁場とよばれるようになり、その性質も調べられた。
その結果がまとめらたのがマクスウェル方程式である。
歴史的にはこちらが先で、それが定理6.13、定理6.14に書き換えられた(はず)。
定理6.13、定理6.14のような形式では、方程式が座標変換で不変なのではなく、
「きれいに変換」(1次変換)される。
このような状況を「自然法則は異なる慣性系でも同じ」とよぶわけである。
例6.23 クーロンの法則
時間的に不変な電場を考える。
すると、 。
マクスウェルの方程式にいれると、
ラプラスの方程式である。
中心に電荷があり、他になにもない(したがって、球対称な)電場は で解けばよい。
その解は となる。
電場は電荷(正とする)から遠ざかる方向で、大きさは、 。
定理6.24
電磁場内の粒子のラグランジアンは以下のようにも書ける。
注6.25
定理6.24からオイラー・ラグランジュ方程式を立てても系6.21の式が得られる。
系6.21の式は、速さが小さいときの近似 を使うと、
よく知られている電場・磁場中の粒子の運動方程式になる。
定理6.26 エネルギー
荷電粒子1つがあるときの全エネルギーは次のようになる。
(証明)
定理6.23の表式を使い を計算すると、
(これは「粒子のエネルギー」と考えられるが、「場と粒子の相互作用のエネルギー」も
組み入れられたものである。)
場も同様に
で計算すると、
ただし、
を使った。□
定理6.27 粒子の運動量
(証明)
定理6.23の表式を使い を計算する。□
注6.28
荷電粒子の影響が小さい場合、「電磁場は荷電粒子の影響を受けない」と
いう近似ができる。その場合、電磁場は、「粒子に対する外場」などといわれる。
その場合、粒子のエネルギーは
と考えられる。
定理6.27と合わせて、
が成り立つ。
非相対論的な近似をすれば
一方、荷電粒子が無い場合(無い場所を考える場合)も電磁場があれば
エネルギーは存在し、
となる。
注6.29
荷電粒子が静止している場合そのエネルギーは
を計算すればよい。
それは となる。
( は 番目の粒子の電荷で、 はその粒子がいる場所の電位。)
ところで、粒子が1つしかない場合(原点に置く)も、自分が生み出す電場がある。
しかし、そのポテンシャルは だったので、
エネルギーは無限大になってしまう。
これは、「古典論の限界」と考えられる。
したがって、通常自分の生み出す場と自分の相互作用は考えない。
(ところで、エネルギーは質量なので、「電荷を持つ粒子の質量は無限大」ということになる。
これは、実は量子論でも同じように出てくる問題である。)
粒子が2つあった場合、自己エネルギーは無視すると、 となる。
高校生が使っていた公式はこれである。