物理学ミニマム(統計力学)1

§8統計力学

定義8.1 微視的状態、巨視的状態
系の力学的状態が厳密に指定されている場合、その状態を微視的状態という。
少数の物理量で粗く指定されている状態を巨視的状態という。

注8.2 対象
統計力学は、微視的状態に関して考察しながら、巨視的状態を扱う。
(熱力学は微視的状態に関して考察しない。)
熱力学・統計力学では自由度が大きい(粒子の数などが大きい)ということで
現れる一般的性質を考察する。
したがって、特殊な場合は考えない。
また、量子論と古典論の両方があるが、基本的なことはかなり共通している。
ここでは量子力学っぽい記述を使う。

原理8.3 等重率の原理、ミクロカノニカル分布
エネルギーがほぼ一定の場合でも、統計力学の対象となる系は自由度が大きく、
そのため多数の状態があり得る。
系は、それらの状態を移り変わっているが、どの状態にいる確率も等しいと考える。
これを等重率の原理という。
このような系の分布をミクロカノニカル分布という。

定義8.4 状態数、状態密度
エネルギー E 以下の状態のすべての数を \Omega_0(E) とする。
\Omega(E)\hspace{3}=\hspace{3}\frac{d}{dE}\Omega_0(E) を状態密度という。

定義8.5 エントロピー、温度
エネルギーが E のとき(ただし、その幅は \delta E とする)のエントロピー
   S\hspace{3}=\hspace{3}k\hspace{3}log\hspace{3}\Omega(E)\delta E
と定義する。ここで kボルツマン定数である。
温度は、\frac{\partial S}{\partial E}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{T} で定義されるとする。

注8.6
エントロピーや温度に限らず熱力学で定義したものと同名のものが多数出てくる。
それらが「同じもの」であることは、その振る舞いや実験から言える。
ここでは熱力学で知られた関係をためらわずに使う。

原理8.7
定義8.5では、\delta E の大きさによって S が変わる。
しかし、\Omega(E)E が大きくなるにつれて、急激に大きくなると考える。
その結果、S\hspace{3}=\hspace{3}k\hspace{3}log\hspace{3}\Omega_0(E) としてよい。

定理8.8 カノニカル分布
温度の決まっている大きな熱浴に入れられた系のエネルギーが E_n である確率は
   P_n\hspace{3}=\hspace{3}e^{-\beta E_n}\hspace{3}/\hspace{3}Z\hspace{30}(\hspace{3}Z\hspace{3}=\hspace{3}\sum_n\hspace{3}e^{-\beta E_n}\hspace{3})
である。
ここで、温度 T に対し \beta\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{kT} としている。
Z は分配関数とよばれ、和は全状態について取っている。
このような系の分布をカノニカル分布という。

(証明)
系のエネルギーを E_n、熱浴のエネルギーを E_h、全エネルギーを E_T とすると、
E_n\hspace{3}+\hspace{3}E_h\hspace{3}=\hspace{3}E_T
等重率の原理によれば、このときの確率は
   P(E_n)\delta E_n\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\Omega(E)\Omega'(E_h)\delta E_n\delta E_T}{\Omega''(E)\delta E_T}
  (\Omega\Omega'\Omega'' は系、熱浴、全体の状態数。)
熱浴は非常に大きく、エネルギーも大きいと考えると、
\Omega(E_n) の影響は \Omega'(E_h) に比べて無視できる。
すると、
   P(E_n)\hspace{3}\sim\hspace{3}\Omega'(E_T - E_n)\hspace{3}=\hspace{3}e^{S'(E_T - E_n)/k}\hspace{3}\sim\hspace{3}e^{(S'(E_T - E_n) - S'(E_T))/k
ここで、最後の変形は、(この場合の)「定数」をかけただけである。
ところで、
   S'(E_T - E_n)\hspace{3}-S'(E_T)\hspace{3}=\hspace{3}-\frac{\partial S'}{\partial E}|_{\small{E = E_T}}E_n\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
であるので、\frac{\partial S'}{\partial E}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{T} とあわせて、
   P(E_n)\hspace{3}\sim\hspace{3}e^{-\beta E_n} 。□

注8.9 ミクロカノニカル分布とカノニカル分布
ミクロカノニカル分布は、エネルギーが一定とした場合の分布だが、
カノニカル分布では、系が熱浴に接しているため、エネルギーが一定ではない。
(ただし、実際には平均値の極めて近くをゆらぐだけと考えられる。)
しかし、粒子の数などは一定だと考えている。
熱浴と粒子をやり取りするような場合(グランドカノニカル分布)は後述する。

定理8.10
温度が決められた系における「物理量の統計的な期待値」は
\bar{A}\hspace{3}=\hspace{3}\sum_n\hspace{3}A_n\hspace{3}e^{-\beta E_n}\hspace{3}/\hspace{3}Z
となる。
ここで A_n は状態 E_n での値(量子論の場合、量子論的な期待値)。

(証明)
定理8.8より明らか。□

定義8.11 自由エネルギー
   F\hspace{3}=\hspace{3}-kT\hspace{3}log\hspace{3}Z

定理8.12 エネルギー
   \bar{E}\hspace{3}=\hspace{3}-\frac{\partial }{\partial \beta}log\hspace{3}Z

(証明)
-\frac{\partial }{\partial \beta}log\hspace{3}Z\hspace{3}=\hspace{3}\sum_nE_ne^{-\beta E_n}\hspace{3}/\hspace{3}\sum_ne^{-\beta E_n}  □

注8.13
定理8.12のように考えればエネルギーは微視的状態のものの平均値で、
微視的状態のエネルギー自体は確率的に目まぐるしく変わっていると言える。
しかし、実際には、「平均値」の状態が非常に高い確率で実現されている。
(おそらく、そのような事情もあって)多くの文献で、平均値を表す記号
(ここではバー)は、しばしば書かれたり省略されたりする。
ここでもそうしたい。

例8.14 調和振動子
E_n\hspace{3}=\hspace{3}\hbar\omega(n\hspace{3}+\hspace{3}\frac{1}{2})
Z\hspace{3}=\hspace{3}\sum_ne^{-\beta\hbar\omega(n\hspace{3}+\hspace{3}\frac{1}{2})}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{e^{-\beta\hbar\omega/2}}{1\hspace{3}-\hspace{3}e^{-\beta\hbar\omega}}
F\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{2}\hspace{3}+\hspace{3}kT\hspace{3}log(1\hspace{3}-\hspace{3}e^{-\beta\hbar\omega})
E\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{2}\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{e^{\beta\hbar\omega}\hspace{3}-\hspace{3}1}

例8.15 黒体放射
内側がピカピカに磨かれた鏡になってる一辺 L の箱を熱浴の中に入れたとする。
すると、中には光が満ちる。(小さい穴をあけて中を見る。)
光は光子の集まりと考えられ、振動数 \nu の光子のエネルギーは h\nu となる。
(この h2\pi で割ったものが \hbar である。
 こちらを使うと、光子1つのエネルギーは \hbar\omega である。
 しかし、ここではなんとなく慣習的に h\nu でまとめる。)
光子が2個ならその2倍、3個ならその3倍となっていくので、調和振動子と同じである。
光の振動数は無限にあるので、「無限に多くの調和振動子の集まり」と考えることができる。
したがって、エネルギーは振動数ごとに例8.14のように計算すればよい。
ただし、\frac{\hbar\omega}{2} まで入れてしまうと、エネルギー無限になってしまうので、
これは除くことにすると、ひとつの振動数について \frac{h\nu}{e^{h\nu/kT}\hspace{3}-\hspace{3}1}
であるものを足しあわせればよい。

次にどのような振動数の光があるかを考える。
光が1辺 L の箱の中に閉じ込められているととすると、それは
Asin(\pi n_1 x/L)sin(\pi n_2 y/L)sin(\pi n_3 z/L)   (n_1n_2n_3 は正の整数)
のように書けるが、それは
e^{i\pi(n_1x\hspace{3}+\hspace{3}n_2y\hspace{3}+\hspace{3}n_3z)/L}
のような光が飛んでいるということであり、その振動数は
\nu\hspace{3}=\hspace{3}\frac{c\sqrt{n_1^2\hspace{3}+\hspace{3}n_2^2\hspace{3}+\hspace{3}n_3^2}}{2L}
つまり、「許される光子の振動数」は (n_1,\hspace{3}n_2,\hspace{3}n_3) 達で番号付けられる。
すると、\nu\nu\hspace{3}+\hspace{3}d\nu の間に存在する振動数の数は、この整数格子の世界で
半径が \frac{2L}{c}(\nu\hspace{3}+\hspace{3}d\nu) の球と半径が \frac{2L}{c}\nu の球の間にある格子点の数である。
その格子点の数は「その範囲にある格子点の数はその体積に等しい」と考える。
ただし、
 
・光は横波で振動方向が2つあること
・正の整数を数えればよいから球の1/8のみであること
L の3乗は全体の体積 V であること
 
を考えると、\nu\nu\hspace{3}+\hspace{3}d\nu の間に存在する振動数の数は、
2\hspace{3}\times\hspace{3}\frac{1}{8}\hspace{3}\times\hspace{3}4\pi(\frac{2L}{c}\nu)^2\hspace{3}\frac{2L}{c}d\nu\hspace{3}=\hspace{3}8\pi V\frac{\nu^2}{c^3}d\nu
よって、振動数が \nu\nu\hspace{3}+\hspace{3}d\nu の間の光がもつ単位体積当たりのエネルギーは
  \frac{8\pi h\nu^3}{c^3}\frac{1}{e^{h\nu/kT}\hspace{3}-\hspace{3}1}d\nu
となる。
これをプランクの放射法則という。
よく見ると、温度が決まると出てくる光の振動数の割合が変わる、ということである。
d\nu の前の関数は適当なところでピークを持つ関数である。
 したがって、だいたいその辺の振動数(を中心とした)の色に見えることになる。)
ちなみに、振動数すべてについて足しあわせると
  E\hspace{3}=\hspace{3}\sigma\hspace{3}T^4    (\sigma\hspace{3}=\hspace{3}\frac{2\pi^5k^4}{15c^2h^3}
となる。
これをステファン・ボルツマンの法則という。

ところで、これがなぜ「黒体」かというと、鏡自身にはペンキで塗られたような色がなく、
ただ純粋に温度に基づいて光を出しているのだから、(理念上は)真の黒なのである。
したがって、鏡ではなく、別の道具立てで「黒」を作っても同じ結果が得られる。

注8.16 星の色、宇宙の背景放射
プランクの放射法則によれば、黒体は温度ごとに色が変わるということである。
完全な黒体というものはない(と思う)が、多くのものがそんな感じで色を変えるだろう。
たとえば、温度の低い星は赤っぽく、高温になると白色になり、さらに高温になると
青っぽくなるのがそれである。

また、宇宙全体が電磁波で満たされており、宇宙背景放射などとよばれる。
これは約3K(絶対温度の3度、より正確には2.7なんちゃら度)の黒体放射に驚くほど
一致していて、宇宙が熱かった頃の昔の名残りと考えられている。
ちなみに、昭和時代は「黒体輻射」と言う人も多かった。

例8.17 一様磁場中のスピン \frac{1}{2} 粒子
一様な磁場中のスピン \frac{1}{2} 粒子は、そのスピンの成分が磁場方向か
逆方向かで、エネルギー -\mu H\mu H を持つ。
そのような粒子が(動かない状態、つまり、運動エネルギーなどは持たない状態)で
多数あったとする。ただし、お互いに影響を与えないとする。
ひとつの粒子の分配関数は
   Z_1\hspace{3}=\hspace{3}e^{\beta\mu H}\hspace{3}+\hspace{3}e^{-\beta\mu H}\hspace{3}=\hspace{3}2\hspace{3}cosh(\mu H\hspace{3}/\hspace{3}kT)
これが N 個あったとすると、全体の分配関数は
   Z\hspace{3}=\hspace{3}[2\hspace{3}cosh(\mu H\hspace{3}/\hspace{3}kT)]^N
よって、
   F\hspace{3}=\hspace{3}-NkT\hspace{3}log\hspace{3}\{2\hspace{3}cosh(\mu H\hspace{3}/\hspace{3}kT)\}
   E\hspace{3}=\hspace{3}-N\mu H\hspace{3}tanh(\mu H\hspace{3}/\hspace{3}kT)
ちなみに、温度を1度上げるために必要なエネルギーを比熱というのだった。
磁場一定での比熱は
   C_H\hspace{3}=\hspace{3}(\frac{\partial E}{\partial T})_H\hspace{3}=\hspace{3}Nk(\frac{\mu H}{kT})^2\hspace{3}/\hspace{3}cosh^2(\frac{\mu H}{kT})\hspace{3}
こんな計算をしていると、頭が良くなったような気がするものである。

スピン \frac{1}{2} 粒子は小さな磁石である。
したがって、外部からの磁場があれば、そっち方向にそろいたがるだろう。
しかし、完全にはそろわない。
どのくらいそろうかというと、それを M で表すと、
M\hspace{3}=\hspace{3}N\bar{\mu}\hspace{3}=\hspace{3}N\frac{\mu e^{\beta\mu H}\hspace{3}-\hspace{3}\mu e^{-\beta\mu H}}{Z_1}\hspace{3}=\hspace{3}N\mu\hspace{3}tanh\hspace{3}\frac{\mu H}{kT}
なぜ完全にそろわないかというと、それが「温度の働き」なのだ。
「温度がある」ということは、「乱れがある」ということである。
上の式で T\hspace{3}=\hspace{3}0 とすると、 M\hspace{3}=\hspace{3}N\mu になる。

例8.18 デバイの理論
固体の比熱を考える。
固体は多数の原子からなり、原子は互いに影響しながら、微小振動をしている。
この原子は独立したものとして扱えないので、例8.17のようにはできない。
たとえば、ある原子が上にずれているとすると、隣の原子も上の方にだいたい同じくらい
ずれていると思われる。そして、そういう影響はずっと遠くまで続くだろう。
そういうものを、人は波という。モノの波を音波というならこれは音波である。
音波があれば、それは原子の振動だから、何もないときよりエネルギーが上がっているだろう。
それはどんな風な上がり方だろうか。
ところで、光は光子(フォトン)の集まりだった。
それなら音も音子(フォノン)の集まりと考えてよいだろう。
振動数が \omega の音子1つは \hbar\omega のエネルギーを持つと考えるのである。
あとは、黒体放射とほぼ同様である。(今度は自由端かな?)
音波には縦波、横波があるのが、例8.15と同様に考えて、\omega から \omega\hspace{3}+\hspace{3}d\omega
間にある振動数(角振動数)の数は、
   g(\omega)d\omega\hspace{3}=\hspace{3}\frac{V}{2\pi^2}(\frac{1}{c_l^3}\hspace{3}+\hspace{3}\frac{2}{c_t^3})\hspace{3}\omega^2\hspace{3}d\omega
と考えられる。(c_l は縦波の音速、c_t は横波の音速。)
ただし、光のときと違って、「無限に多くの振動数がある」とは言えない。
振動数が大きくなると、波長が短くなるが、波長が原子間の距離より短くはならないからだ。
さらに考えてみると、原子の数が N だから、そもそも自由度は 3N のはずだ。
(「揺れ方」は見方を変えた自由度の表現である。)
そこで、
   g(\omega)\hspace{3}d\omega\hspace{3}=\hspace{3}\frac{9N}{\omega_D^2}\omega^2\hspace{3}d\omega\hspace{15}(\omega\hspace{3}<\hspace{3}\omega_D\hspace{3})\\ \hspace{57}=\hspace{3}0\hspace{57}(\omega\hspace{3}>\hspace{3}\omega_D\hspace{3})
とする。
こうすると、 \int\hspace{3}g(\omega)\hspace{3}d\omega\hspace{3}=\hspace{3}3N となる。
また、縦波と横波を平均して一緒にしたと言える。
(ここまで、大胆な近似であるが、物理をとらえていると思う。)
音子1つで考えると
   Z\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n=0}^{\infty}e^{-(n+1/2)\hbar\omega/kT}\hspace{3}=\hspace{3}[2\hspace{3}sinh\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{2kT}]^{-1}
   F\hspace{3}=\hspace{3}kT\hspace{3}log(2\hspace{3}sinh\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{2kT})
よって、全部合わせると、
   F\hspace{3}=\hspace{3}kT\hspace{3}\int^{\hspace{15} \infty}_{\hspace{6} 0}\hspace{3}log(2\hspace{3}sinh\hspace{3}\frac{\hbar\omega}{2kT})\hspace{3}g(\omega)\hspace{3}d\omega
   E\hspace{3}=\hspace{3}kT\hspace{3}\int^{\hspace{15} \infty}_{\hspace{6} 0}\hspace{3}(\frac{\hbar\omega}{2}\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\hbar}{e^{\hbar\omega/kT}\hspace{3}-\hspace{3}1})\hspace{3}g(\omega)\hspace{3}d\omega
すこし計算をすると(ここでは示さないが難しくはない)、
C_V\hspace{3}=\hspace{3}(\frac{\partial E}{\partial T})_{V,\hspace{3}N}\hspace{3}=\hspace{3}3Nk\cdot 3(\frac{T}{\Theta_D})^3\hspace{3}\int^{\hspace{60} \Theta_D/T}_{\hspace{6} 0}\hspace{3}\frac{\xi^4e^\xi}{(e^{\xi}\hspace{3}-\hspace{3}1)^2}\hspace{3}d\xi
ここで、 \Theta_D\hspace{3}=\hspace{3}\hbar\omega_D\hspace{3}/\hspace{3}k で、これをデバイ温度とよぶ。
これは、実験とよくあうらしい。
特に、 \Theta_D\hspace{3}/\hspace{3}T\hspace{3}<<\hspace{3}1 (高温)のとき、 \xi\hspace{3}<<\hspace{3}1 だから、
C_V\hspace{3}\sim\hspace{3}3Nk\cdot 3(\frac{T}{\Theta_D})^3\hspace{3}\int^{\hspace{60} \Theta_D/T}_{\hspace{6} 0}\hspace{3}\xi^2\hspace{3}d\xi\hspace{3}=\hspace{3}3Nk
\Theta_D\hspace{3}/\hspace{3}T\hspace{3}>>\hspace{3}1 (低温)のとき、
C_V\hspace{3}\sim\hspace{3}3Nk\cdot 3(\frac{T}{\Theta_D})^3\hspace{3}\int^{\hspace{15} \infty}_{\hspace{6} 0}\hspace{3}\xi^2\hspace{3}d\xi\hspace{3}\sim\hspace{3}T^3
これらは、デバイ理論以前から知られていたものである。

注8.19
音の粒子・・・というと、どんなものだろうと考えると思う。
私個人には個人的な結論があるが、万人が納得するとも思えないので書かない。
いずれにしても、「数式で表され、計算値が実験とよくあうもの」である。

定義8.20 化学ポテンシャル
系が熱浴と粒子のやり取りをする場合、系の状態を表す変数は系の粒子数にも
依るようになる。特に、化学ポテンシャル \mu を次のように定義する。
\frac{\partial }{\partial N}\hspace{3}S(E,\hspace{3}N)\hspace{3}=\hspace{3}-\frac{\mu}{T}

定理8.21 グランドカノニカル分布
「温度の決まっている粒子のやり取りもする大きな熱浴」に入れられた系の
粒子数が N で、エネルギーが E_{N,n} である確率は
   P_n\hspace{3}=\hspace{3}e^{-\beta (E_{N,n} - N\mu)}\hspace{3}/\hspace{3}\Xi\hspace{30}(\hspace{3}\Xi\hspace{3}=\hspace{3}\sum_N\sum_n\hspace{3}e^{-\beta (E_{N,n} - N\mu)}\hspace{3})
である。
\Xi は大分配関数とよばれ、和は全粒子数、全状態について取っている。
このような系の分布をグランドカノニカル分布という。

(証明)
定理8.8と同様に考えると、 P(N,\hspace{3}E_{N,n})\hspace{3}\sim\hspace{3}\Omega(N_T\hspace{3}-\hspace{3}N,\hspace{3}E_T\hspace{3}-\hspace{3}E_{N,n})  。
そのあとの議論も同様である。□

注8.22
ここでは粒子が1種類で考えた。
複数種類への拡張もできる。
定理8.21の形から、化学ポテンシャルは「粒子1つを系にいれるために必要なエネルギー」
と解釈できることがわかる。

注8.23
\lambda\hspace{3}=\hspace{3}e^{\beta\mu} とし、粒子が N 個のときの分配関数を Z_N とすると、
   \Xi(\lambda)\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{N\hspace{3}=\hspace{3}0}^{\infty}\lambda^NZ_N
と書ける。
この形は結構使われる。これから、逆に
Z_N\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2\pi i}\hspace{3}\oint\hspace{3}\Xi(\lambda)\hspace{3}\frac{d\lambda}{\lambda^{N+1}

定義8.24 占有数、フェルミ統計、ボーズ統計
1粒子のエネルギーが \epsilon_i\hspace{15}(\hspace{3}i\hspace{3}=\hspace{3}1,\hspace{3}2,\hspace{3}3,\hspace{3}\cdots\hspace{3}) で表されるとき、
それらの状態になっている粒子の数を
   (n)\hspace{3}=\hspace{3}(\hspace{3}n_1,\hspace{3}n_2,\hspace{3}n_3,\hspace{3}\cdots\hspace{3})
で表すことにする。
ただし、フェルミオンは、2つ以上の粒子が同一状態になれないので、 n_i\hspace{3}=\hspace{3}0,\hspace{3}1 であり、
ボソンでは n_i\hspace{3}=\hspace{3}0,\hspace{3}1,\hspace{3}2,\hspace{3}\cdots となる。
この n_i を占有数などという。
また、多数の粒子を扱う場合、それぞれをフェルミ統計、ボーズ統計という。

定理8.25
強く相互作用していない粒子のグランドカノニカル分布で大分配関数は
   \Xi\hspace{3}=\hspace{3}\prod_i\{1\hspace{3}\pm\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)}\}^{\mp 1}    (上の符号がフェルミ統計で、下がボーズ統計)
また占有数の平均は次のようになる。
   \bar{n_i}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{e^{\beta(\epsilon_i\hspace{3}-\hspace{3}\mu)}\hspace{3}\pm\hspace{3}1}    (上の符号がフェルミ統計で、下がボーズ統計)

(証明)
Z_N\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{(n)}\hspace{3}e^{-\beta\sum_i\epsilon_in_i}
ただし、和を取る (n)N\hspace{3}=\hspace{3}\sum_in_i となるものとする。
\Xi\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{N=0}^{\infty}e^{\beta N\mu}Z_N\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{N=0}^{\infty}\sum_{(n)}e^{\beta\sum_i(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}
   \hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n_1}\sum_{n\2}\hspace{3}\cdots\hspace{3} e^{\beta\sum_i(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}=\hspace{3}\prod_i\sum_{n_i}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}
ここでフェルミ統計なら i\sum_{n_i}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}=\hspace{3}1\hspace{3}+\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)} で、
ボーズ統計なら i\sum_{n_i}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{1\hspace{3}-\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)}}
よって、
   \Xi\hspace{3}=\hspace{3}\prod_i\{1\hspace{3}\pm\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)}\}^{\mp 1}
\epsilon_i の占有数が n_i である確率は
P(n_i)\hspace{3}=\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\prod_k\sum_{n_k}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_k)n_k}\hspace{3}/\hspace{3}\Xi
ただし、ki に等しくならない範囲で動くとする。
この分子と分母の大部分がキャンセルして
P(n_i)\hspace{3}=\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}/\hspace{3}\sum_{n_i=0}^{\infty}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}
\bar{n_i}\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n_i=0}^{\infty}n_ie^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}/\hspace{3}\sum_{n_i=0}^{\infty}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}
   \hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{\beta}\frac{\partial }{\partial \mu}\hspace{3}log\hspace{3}\sum_{n_i=0}^{\infty}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)n_i}\hspace{3}=\hspace{3}\pm\frac{1}{\beta}\frac{\partial }{\partial \mu}\hspace{3}log\hspace{3}\{1\hspace{3}\pm\hspace{3}e^{\beta(\mu\hspace{3}-\hspace{3}\epsilon_i)}\}  。□


注0.7
学生時代、統計力学は好きな「科目」だったが、ほとんど何も覚えていない
ことに驚愕している。
私にとって最後まで残った統計力学は定理8.8の表明だけだった。
それはそれとして、久保先生の本は本当に良いと思う。



参考書:
熱学・統計力学 久保亮五