物理学ミニマム(特殊相対論)
§5 特殊相対論
定義5.1
我々の時空は4次元であり、その座標は などと書かれる。
( は光速を表す。)
また、 とも書く。
添字を「足」などとよび、 などで表す。
また、以下で見るように、足は下に付く場合もある。
定義5.2 慣性系
この節では、時計と座標をもった系を考える。
その時計と座標で、過去も未来も世界の隅々まで計測できるとする。
加速度運動をしていない系を慣性系とよぶ。
また、この節では、慣性系を単に系とよぶ。
原理5.3 相対性原理
すべての自然法則はあらゆる慣性系において同一である。
特に、どの慣性系から見ても光速は同じである。
定義5.4 世界間隔
時空内の異なる2点の座標の差を としたとき、
その2点間の世界間隔 を と定義する。
注5.5 光速不変の表現
時空内の異なる2点をちょうど光が進んだとすると となる。
光速が不変だから、異なる系の座標(ダッシュをつけて表現)で計算しても
となる。
(ポイントは、両方とも同じ定数 を使っているということである。)
すなわち、光速不変性の意味は「 」と言える。
しかし、自然に考えれば、それは「世界間隔はどの系から見ても同じ」となる。
すなわち、光速不変性は「 」で表現される。
定義5.6 ローレンツ変換、ローレンツ群
を不変にする座標の一次変換をローレンツ変換と言う。
ローレンツ変換のなす群をローレンツ群という。
3次元空間の回転変換は、 に影響を与えず、 を
不変にするから、ローレンツ変換の1種である。
「基準系に対し等速度運動をしている系での座標」と「基準系での座標」を
結びつける変換も(光速不変性より)ローレンツ変換である。
これらは行列表示される。
1つのローレンツ変換を表す行列を とすると、
「上下で繰り返される添字は足す」という記法を使い、 と書く。
注5.7 座標が動くのか、物体が動くのか
たとえば、「回転変換」と言った場合、物体を回転させ、その座標の変化を見るのか、
物体は動かさず座標軸を回転させその座標で物体の位置を表すのか、迷うことがある。
もちろん、本質的な違いはないが、注意が必要である。
この節では、基本的に、系とそれに付随する座標軸を動かし、
その系の座標(ダッシュ付き)と元の系(基準系)の座標(ダッシュなし)の関係を見る。
以下では、基準系を 系、動かした系を 系などとよぶ。
常識的な用語で言えば、 系は「止まっている観測者(時計と物差しを持っている人)」、
系は「動いている観測者」を表すことになる。
ただし、 系の観測者にとっては、「動いているのは 系」となる。
注5.8
弾性体ではただ「繰り返す添字」の和を取るようにしたが、
相対論的理論では「上下で繰り返す添字」で和を取る。
これを簡約とか縮約という。
定理5.9 等速度で動く系からみた座標
基準系に対し空間の軸をそろえ、 軸方向に速さ で動く系を考える。
そのとき
このような座標変換をブーストなどと言う。
(証明)
当然、 座標、 座標は変換しないと考えられる。
すると、 を不変にする変換は
のようになる。
( 「 座標の向きを反転させる」などもあるが、
それは、「少しずつ速度を上げていってできる系」ではないので、考えない。)
動いている系の原点は であり、
それは元の系の座標では で動いているのだった。
すなわち、 となる。
あとは、これで書き直すだけである。□
注5.10 空間反転、時間反転
( は対角線上に指定された値があり、他は という意味。)
もローレンツ変換である。それぞれ空間反転、時間反転とよばれる。
これは「1つの系を徐々に変化させてそのような座標を持つ系にした」のではなく、
「もともとそういう座標の系だった」か「(鏡に映すなど)不連続な操作でうつした系」
と考えられる。
注5.11 ガリレイ変換
が小さいときには となる。
これは、物体の速さが光速にくらべて小さいときの「常識」である。
注5.12 同時刻
系での「同時刻」は となる線上である。
たとえば、 の線は、 系では同時刻上にない。
つまり、相対論では「同時刻という概念は相対的」になったと言える。
定義5.13 時間的、空間的、光錐
のとき、この世界間隔は時間的という。
のとき、この世界間隔は空間的という。
原点からみて となる点の集まりを光錘などという。
注5.14
世界間隔が時間的なとき、その始点と終点を結ぶ線は「光より遅い移動」を表すので、
そのように動く 系から見ると、「それらの点は空間的に同じ場所」と言える。
世界間隔が空間的なとき、その始点と終点を結ぶ線は「光より速い移動」を表すが、
そのようなものは存在しないので、「それらの点は相互に影響を与えない」と言える。
考えてみると、それらが「同時刻」に見える 系があることがわかる。
光錘は、それらを分ける境界である。
注5.15 ローレンツ短縮、時間の遅れ
動いている棒は縮んで見える。
( は棒の固有の長さ)
動いているものの時間はゆっくり進んで見える。
( は固有時間)
これらは、ローレンツ変換から示すことができる。
ものごとは相対的であるので、等速で離れていくもの同士が、
互いに相手を「短い、遅い」と言いあうことになるが、2つの系はずっと離れて
いくので(つまり、違う世界(系)の住人なので)問題はない。
ロケットが行って戻ってくる場合は、加速度運動をしているので、上記の公式は
そのままには適用されず、加速度運動していた方の時計が遅れることになる。
(結果的に同じ形になるらしい。それは一般相対性理論の範囲(だと思う)。)
定義5.16 計量テンソル、単位テンソル
を計量テンソルという。
また、
を単位テンソルとよぶ。
(計量テンソルを で表記しなかったのは、単に敬意を表しただけである。)
注5.17
計量テンソルを使うと と書ける。
ローレンツ変換 は世界間隔を不変にするから、 。
これより、 もわかる。
定義5.18 ベクトル、スカラー、テンソル
足が1つあり、ローレンツ変換に対して と
変換されるものを反変ベクトルという。
また、 と同様に変換されるものを共変ベクトルという。
これは一般に と表記する。(足を下げた。)
足がついておらず、ローレンツ変換に対して不変なものはスカラーという。
足が複数ついており、それらの足1つ1つについてベクトルと
同様に変換されるものをテンソルという。
足の数を階数といい、ベクトルを「1階のテンソル」とも言う。
テンソルの足も計量テンソルによって上げ下げできる。
注5.19
たとえば、2次元空間の原点に矢印が置いてあったとする。
矢印は2つの数字の組(x成分、y成分)で表せる。高校生のベクトルである。
ここで矢印は動かさずに座標を回転させると、
新しい座標での矢印を表す2つ組の成分も変わる。
それは、座標と同様である。したがって、これはやっぱりベクトルと言える。
ところが、「ベクトルの長さ」は回転変換で変化しない。
したがって、ベクトルの長さはスカラーと言える。
仮りに2つのベクトルの長さを並べておくと見た目はベクトルっぽいが、
それらは変換を受けないので、ベクトルではない。
例5.20
足の上げ下げによって、反変ベクトルと共変ベクトルは簡単に移り変わるので、
「ベクトルの反変成分・共変成分」と言うこともある。
共変ベクトルの変換性は である。
ここで は、ローレンツ変換の行列の足を計量テンソルで
適当に上げ下げしたものである。
と を反変ベクトルとする。
は注5.17よりスカラーである。
2階のテンソルは と変換される。
これは の変換と同じである。
注5.21
座標 はそれ自体反変ベクトル(1階のテンソル)である。
また、計算してみると、 は共変ベクトルである。
したがって 階のテンソルを微分すると、 階のテンソルになる。
また、計量テンソルは、「数」として定義したが、注5.17よりテンソルである。
(テンソルとして変換しても正しい値になる。)
単位テンソルも同様である。
(単位テンソルは計量テンソルの2つの足を上下にずらしたものである。)
定義5.22 擬テンソル
ローレンツ変換に対し、「テンソルとして変換させた上に、その変換の行列の
行列式をかけたもの」に変換されるものを擬テンソルという。
擬スカラーなら 、
擬ベクトルなら
となる。
定義5.23 完全反対称(擬)テンソル
足が4つある擬テンソルを次のように定義する。
足の中に同じものがあれば 。
足が の偶置換で得られる並びなら 、奇置換で得られる並びなら 。
注5.24
行列式の定義により
そこで、 の変換を
とすれば、 となる。
こう定義すれば、 はどの座標系でも定義5.23と一致する。
ぶっちゃけると、空間反転の変換は なので、
空間反転した世界でも定義5.23であるために、擬テンソルにしたと言える。
原理5.25
1粒子の作用は
である。
ここで は粒子の通る曲線の世界間隔(4次元的な長さ)を意味する。
注5.26
「これでよい」ということは、最終的には実験によって確かめられる。
しかし、1粒子から作られるローレンツ不変な量であり、以下で見るように、
速度が遅い場合は、ニュートンの力学に一致することから、もっともらしい。
定理5.27
1粒子のラグランジアンは
である。
(証明)
□
定理5.28
運動量:
エネルギー:
(証明)
、
を使う。□
注意5.29
のとき、 。
ちなみに、「原子核反応では質量がエネルギーに変わる」と言われる。
間違いではないが、化学反応でも何反応でも質量は増減している。
たとえば、普通の燃焼によってもエネルギーが出てくるが、
そのエネルギーはいったいどこから出てくると言うのか。
もちろん、分子たちの質量がエネルギーに変換されているのである。
ただ、それが観測できないほど小さいのだ。
系5.30
注5.31
たとえば、エネルギーの式を見ると、 が になると、分母が になる。
そのため、「通常の物質は光速以上の速さで動けない」となる。
しかし、 が の場合は になり得る。
系5.30より、そのとき となる。
これは光についてよく知られた式である。
定義5.32 4次元速度、4次元運動量
注5.33
であり、
。
4次元運動量は に一致する。
すなわち、エネルギーと運動量はあわせて4次元ベクトルである。
これをもって系5.30を書き直すと 。
定理5.34
力を受けない粒子の運動は
である。
(証明)
より、
最後の変形は部分積分で表面項を とする。
物理の計算はいつもアレである。□
注5.35
結局、この運動方程式は、エネルギーと運動量は不変ということになる。
力が働いていないのだから当然である。
注5.36 一般形式
古典力学の形式に従えば、 だった。
これはまだ時間と空間をバラバラに扱っている。
4次元的にまとめると、
スカラー量を(反変な)座標で微分しているのだからこれは共変ベクトルである。
よって、これを とおく。
すると、 となる。
定理5.34の証明部分の計算によれば、 だから、
である。悩まなくてよい。
注0.4
書き始めたとき、こんなに長くなるとは思わなかった。
4次元運動量などと書いたものは、往々にして、4元運動量などとよばれる。
そうよぶ理由も(想像だが)わかる。
しかし、それなら、座標も4元座標となりそうだが、それはあまり聞かない(?)。
「4次元ベクトルであるところの4元運動量」というのもすわりがわるい。
ということで、4次元運動量と書いたが、4元運動量、あるいは、
4-運動量と言う人も多いということ、注意されたし。