物理学ミニマム(量子力学)2
定理7.38
(証明)
計算あるのみ。□
注7.39
よって、中心対称なポテンシャルの場合は
よって、これらは保存量となる。
しかし、 は互いに交換しないので、
同時に2つ以上指定できない。
は交換するので、たとえば、固有関数として と を指定できる。
定理7.40 角運動量の表現
定理7.38の交換関係を満たす演算子の表現を考える。
ただし、「一般論」とするため、定義7.39の をすべて にする。
すると、 と の固有関数は次のように選べる。
ここで は を含む正の半整数か整数。
(証明)
と の固有関数を次のように考える。
だから、 。
には最大値があるのだから、それを とおく。
ところで、交換関係より、 。
したがって、 とおける。
ただし、 。
( でなければより大きな固有値を持つものができてしまうから。)
そこで、左から を作用させると、
。
よって、 。
には下限もあり、 とできる。
このとき、 は を含む正の半整数か整数となる。
そこで、あらためて、 を と書き直すと、
下から2行目を除いて定理が示されたことになる。
を と ではさんで積分すると、
異なる固有値を持つ関数の直交性を使って、
だから、 。
行列要素を実数に取ると、最後の式になる。□
注7.41
定理7.40は交換関係のみから出した。
その結果、 は を含む正の半整数か整数となった。
しかし、定義7.37によって定義された演算子では、 は を含む正の整数となる。
これは次の定理7.42、補題7.43で見る。
なお、 を「角運動量」、 を「角運動量の 成分」などという。
(証明)
より、
。
これから
がでる。
同様に
。
これらを使えば計算できる。□
補題7.43
定理7.42で定義された演算子に対し、 の固有値は整数となる。
(したがって、 の固有値の も整数となる。)
(証明)
固有関数の式を書くと 。
すると、 となる。
この関数が1価であるためには、 は整数でなければならない。
定理7.44 球面調和関数
次のような の関数(球面調和関数)がある。
ただし、 は を含む正の整数。
(証明)
略。(この一般論は定理7.40。それとは別に具体的に構成できる。)
定理7.45 極座標表示のシュレディンガー方程式
(証明)
ごめん。計算だ。□
例7.46 クーロン場内の荷電粒子
波動関数を とすると、
シュレディンガー方程式は に対して次のようになる。
とすると、
この方程式には のように正の整数 (と )で区別される解がある。
(導出はけっこう大変で、省略。)
を満たし、
そのときのエネルギーは となる。
高校の物理の「原子物理」で覚えさせられた公式である。
注7.47 電子の軌道
古典的な意味のでの「原子内の電子の軌道」というものはない。
なぜなら、位置と運動量(速度)は同時に確定できないから。
しかし、例7.46でみたように、電子の波動関数は、整数 、、 で指定できる。
これらを指定した波動関数は「形」を持っており、それを軌道とよんだり、
あるいは整数値自体を軌道とよんだりする。
系7.48 一様な磁場内の荷電粒子
電磁気学注6.28より、非相対論的な近似では
ところで、 は に対応する運動量
だったので、量子力学では、これが になると考えられる。
よって、量子力学では、
一様な磁場 は と書ける。
よって、2次の項は小さいとして消すと、
これは、定数をもろもろまとめると、
この を(この粒子の軌道角運動量による)磁気モーメントなどという。
原子に一様な磁場をかけると、電子のエネルギーが によって、
磁場がないときと違ってくる。
これは「原子から出てくる光のエネルギーが磁場のあるなしによって変わる」と
いう現象で観測され、(この現象が)ゼーマン効果とよばれる。
荷電粒子がぐるぐる回っていれば、それは小さな磁石であり、
その向きが外部の磁場とそろうかどうかでエネルギーが変わる。
ということであり、タネがわかればどうということはないと思う。
しかし、当初は大発見であった(はず)。
定理7.49 角運動量の合成
定理7.40で定義した固有関数を組み合わせると新しい固有関数ができる。
それは次のように書ける。
[tex:\psi_{J,M}\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{M_1\hspace{3}M_2}\hspace{3}
このとき、 。
[tex:
(証明)
角運動量が のとき、状態は 個ある。
したがって、 には全部で の状態がある。
この中で 成分が最大のものは 。
これは合成されて となると考えられる。
すなわち、 。
(これは、 を作用させて確かめられる。)
これに付随する状態は、 で
全部で 個ある。
成分が1つ小さいものは だが、もともと
と の2つがあった。
そのうち1つの状態(この2つの適当な結合)は であるはずなので、
あと1つ状態がある。
それは、 と考えられる。その仲間は 個ある。
さらに 成分が1つ小さいものを考えて、、、と、 まで続けられる。
すると、全部の状態の数 を尽くす。□
注7.50
定理7.49の証明は微妙な感じだが、実際にやってみると納得できる。
クレプシュ・ゴルダンの係数も求められる。(例7.56を参照。)
角運動量の合成は、複数の粒子の合成状態を出すのに使える。
しかし、以下で見るように、1粒子の場合にも適用されることがある。
また、「大きい角運動量の表現を小さい角運動量の表現から作る」という
数学的な手段としても有用である。
定義7.51 スピン
一般に、粒子は角運動量と同質のスピンとよばれる値を持つ。
スピンは定理7.40に従う。
注7.52
スピンのイメージは「自転の角運動量」のようなものである。
(言葉自体もそういう意味のものだろう。)
しかし、素粒子は大きさが と考えられるので、古典的な意味での
自転の角運動量ではない。
また、スピンを持つ粒子が、スピンを失うことはない。
つまり、「スピンが止まる」というようなことはない。
(したがって、スピンは古典的な意味での自転ではない。)
例7.53
電子や核子のスピンは である。
のスピンは 、光子(光の粒子)のスピンは である。
注7.54
電子が原子核の周りを動くとき、原子核の周りの運動に関する角運動量がある。
これは軌道角運動量などとよばれる。
しかし、電子はスピンを持つので、全角運動量は、軌道角運動量とスピンを
定理7.48のように合成したものになる。
したがって、軌道角運動量が の電子の全角運動量は か となる。
例7.55 スピン 表現
スピンが なので、状態は の2つしかない。
簡単のため、これらを で表す。
また、スピン演算子(角運動量演算子 のスピン版)は で表す。
直交関係は とする。
定理7.40にしたがって、
例7.56
スピン の粒子を2つ集めると、定理7.47より、スピンが の状態と の状態になる。
それは
と
である。
前の係数が(この場合の)クレプシュ・ゴルダン係数である。
例7.57
例7.56の表現を(普通の意味での)行列の形で表示することもできる。
この表示を使う場合、電子の波動関数は、2成分の関数ということになる。
なお、上のスピンの行列で を取ったものをパウリの 行列などという。
注7.48からの類推で、一様な磁場中の電子のエネルギーが
スピンによって変化すると考えられる。(実際に観測される。)
その変化は、 のようにまとめらる。
ただし、 の具体的な値は相対論的な理論で計算される。
例7.58 中心対称場中のスピン 粒子(の角度部分)
を行列で表示すると、
となる解を探すと、
に対して、
に対して、
が得られる。(計算によって確かめられる。)
定義7.59 ボソン、フェルミオン
スピンが半奇数の粒子をフェルミオン、整数の粒子をボソンという。
電子や核子はフェルミオンで、 や光子はボソンである。
原理7.60 パウリの排他原理
フェルミオンは、同一の量子状態に複数の粒子がなることはできない。
例7.61
水素原子の周りをまわる電子の軌道1つ1つに電子は2つずつ入れる。
スピンの向きで2種類の状態ができるから。
しかし、3つ目は入れない。
注0.6
力の限りあっさりミニマムで終わらせたい。
と、思ったけど、かなり長くなった。
まだ、散乱理論があるが、それは「初等量子力学1問1答」あたりを参照。
ボソン・フェルミンの話はやや唐突だが、場の理論で、
あるいはその前に、統計力学で登場するだろう。