数学リハビリ(多項式環)

ここでは、 R を素元分解整域とする。

主張1
R を係数とする多項式 F(X)r\hspace{3}\in\hspace{3}R で割り切れるなら、
F(X) の各係数が r で割り切れる。

(証明)
そうだよね。□

主張2
R を係数とする多項式の環 R[X] で規約な多項式
係数を R の商体 \bar{R} に拡張した多項式の環 \bar{R}[X] でも規約である。

(証明)
F\hspace{3}\in\hspace{3}R[X] が既約とする。
これを\bar{R}[X] の元と考え F\hspace{3}=\hspace{3}GH に分解できたとする。
これに R の元を適当にかけると R[X] での因数分解
FM\hspace{3}=\hspace{3}G'H' が得られる。
M を素元分解して、その1つの因子を m と書き、
   G'\hspace{3}=\hspace{3}g_n\hspace{3}X^n\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
   H'\hspace{3}=\hspace{3}h_k\hspace{3}X^k\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
と書くと、
m\hspace{3}|\hspace{3}G'H'                  と
G'H'\hspace{3}=\hspace{3}g_n\hspace{3}h_k\hspace{3}X^{(n+k)}\hspace{3}+\hspace{3}\cdots   より
m\hspace{3}|\hspace{3}g_n または m\hspace{3}|\hspace{3}h_k となる。
m\hspace{3}|\hspace{3}g_n とすると、 m\hspace{3}|\hspace{3}(G'\hspace{3}-\hspace{3}g_nX^n)H' より m\hspace{3}|\hspace{3}g_{(n-1)} または m\hspace{3}|\hspace{3}h_k となる。
この操作を繰り返していくと、 m\hspace{3}|\hspace{3}G' または m\hspace{3}|\hspace{3}H' であることがわかる。
(数学の証明はもっとかっこよく書くのだろう。)
以上より、 R[X] の世界で F\hspace{3}=\hspace{3}G''H'' となる。
しかるに、 R[X] の世界では F は既約なので G''\hspace{3}\in\hspace{3}R または H''\hspace{3}\in\hspace{3}R となる。
G'H' は、これらに R の元を掛けたものだから、 G\hspace{3}\in\hspace{3}\bar{R} または H\hspace{3}\in\hspace{3}\bar{R} 。□

主張3
K を体とすると K[X] は単項イデアル整域である。

(証明)
K[X] では小学生的割り算ができる。(ので、ユークリッド整域である。)
K[X] の任意のイデアルI とすると、x の次数を |x| と書いて、
N(I)\hspace{3}=\hspace{3}\{|x|\hspace{3}\in\hspace{3}N\hspace{3}|\hspace{3}x\hspace{3}\neq\hspace{3}0,\hspace{3}x\hspace{3}\in\hspace{3}I\hspace{3}\} なる集合ができる。
N自然数(整列集合)なので、N(I) には最小値があり、
その最小値に対応する元を x_0 とする。
(要するに、x_0I 内の最小次数の多項式である。)
すると、任意の x\hspace{3}\in\hspace{3}I に対して、割り算を実行して x\hspace{3}=\hspace{3}d\hspace{3}x_0\hspace{3}+\hspace{3}r と書けるが、
これを r\hspace{3}=\hspace{3}x\hspace{3}-\hspace{3}d\hspace{3}x_0 として考えると、 r\hspace{3}\in\hspace{3}I となる。
この r の次数は x_0 のものより小さいはずであるが、「 |x_0| の次数が最小」という事実と
矛盾しないためには r\hspace{3}=\hspace{3}0 でなければならない。□

主張4
単項イデアル整域は素元分解整域である。

(略証)
任意のイデアルにはそれを含む極大イデアルが存在する。
(a) を含む極大イデアル(p) とすると、 p\hspace{3}|\hspace{3}a 、すなわち、
a\hspace{3}=\hspace{3}p\hspace{3}a_1 と書ける。
a_1 が単元なら分解完了である。
単元でない場合は、同様に a_1\hspace{3}=\hspace{3}q\hspace{3}a_2 とでき、 a\hspace{3}=\hspace{3}p\hspace{3}q\hspace{3}a_2 となる。
ここで a_2 が単元なら分解完了である。
単元でない場合・・・と繰り返していき、いつまでも単元にならなかったとする。
すると、 (a)\hspace{3}\sub\hspace{3}(a_1)\hspace{3}\sub\hspace{3}(a_2)\hspace{3}\cdots という無限に続くイデアルの増大列ができる。
しかし、 \cup\hspace{3}(a_i)イデアルであるから、 \cup\hspace{3}(a_i)\hspace{3}=\hspace{3}(b) のように表されるはずである。
そうすると、あるとき、 b\hspace{3}\in\hspace{3}(a_r) となるはずであり、
すると、 (a_r)\hspace{3}=\hspace{3}(a_{r+1})\hspace{3}=\hspace{3}\cdots となってしまい矛盾する。□

主張5
整域において素元は既約元である。

(証明)
素元 pp\hspace{3}=\hspace{3}ab と書けたとする。
すると、 p\hspace{3}|\hspace{3}a または p\hspace{3}|\hspace{3}b となる。
前者だとすると、 a\hspace{3}=\hspace{3}pc となり、 p\hspace{3}=\hspace{3}bcp となる。
すると、 bc\hspace{3}=\hspace{3}1 となり、b が単元であることがわかる。□

主張6
素元分解整域において既約元は素元である。

(証明)
既約元 q を素元分解して q\hspace{3}=\hspace{3}p_1p_2\hspace{3}\cdots\hspace{3}p_n になったとする。
ところが、素元は既約元なので、n\hspace{3}=\hspace{3}1 以外ありえない。□

主張7
単項イデアル整域において (0) 以外の素イデアルは極大イデアルである。

(証明)
p を素元として、 (p) を含むイデアル (a) があったとする。
すると、もう勝負あった気がするが、 p\hspace{3}=\hspace{3}ab と書ける。
p が素元なので、a\hspace{3}=\hspace{3}pcb\hspace{3}=\hspace{3}pc と書ける。
すると bc\hspace{3}=\hspace{3}1ac\hspace{3}=\hspace{3}1 となる。
前者は (p)\hspace{3}=\hspace{3}(a) を意味し、後者は (a)\hspace{3}=\hspace{3}R を意味する。□

主張7の系
K を係数とする多項式環 K[X] において、F(X) が既約多項式とすると、
(F(X)) は極大イデアルである。

主張8
R を係数とする多項式環 R[X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_n] において、
既約多項式は素元である。

(証明)
帰納法を使う。
n\hspace{3}=\hspace{3}0 では自明に成立している。
n までで成立しているとする。
F\hspace{3}\in\hspace{3}R[X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_{n+1}] が既約とすると、
FF\hspace{3}\in\hspace{3}R(X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_n)[X_{n+1}] でも既約。
ここでは既約元が素元だから、 F\hspace{3}|\hspace{3}GH なら F\hspace{3}|\hspace{3}GF\hspace{3}|\hspace{3}H
たとえば、 F\hspace{3}|\hspace{3}G とすると、 R(X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_n)[X_{n+1}] の世界で G\hspace{3}=\hspace{3}FX
これにR[X_1,\hspace{3} \cdots ,\hspace{3} X_n] の元を適当に掛ければ、 R[X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_{n+1}] の世界で、
GM\hspace{3}=\hspace{3}FL  ( M\hspace{3}\in\hspace{3}R[X_1,\hspace{3} \cdots ,\hspace{3} X_n] )。
主張2の証明と同様に考えれば、M の既約因子で FL が割れる。
しかし、F は既約だから、割れるのは L のみ。
よって、M の既約因子で割っていって G\hspace{3}=\hspace{3}FL' となる。□

主張9
R を係数とする多項式環 R[X_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}X_n] は素元分解整域である。

感想
数学的には主張9辺りが重要なのだと思う。
しかし、テクニック的には、主張1、主張2が重要な気がする。
真ん中辺の証明は堀田先生の「代数入門」を見た。
それ以外(の主要部)は梶原先生の「代数曲線入門」を見た。