物理学ミニマム(弾性体)
§3 弾性体
定義3.1 座標、長さ、面素ベクトル、体積素
座標は直交座標 で表す。
線素 の長さは 。
「平面に近似できる小さな面」を表す面素ベクトル を、
「大きさがその面積、方向がその面の法線方向のベクトル」とする。
物体の小さな部分の体積は である。
注3.2
繰り返しの添字は和を取るものとする。
すなわち、 は を意味する。
慣れれば大変使いやすい記法であり、慣れなければ物理の文献は読み難い。
注3.3
ガウスの定理(発散定理)は次のように書ける。
繰り返しの添字は和を取っていることに注意。
定義3.4 変位ベクトル
固体の変形を見るのに、もとの座標を引数に取り、変位の量を出す関数 を使う。
たとえば、 にある点が に変位するなら、 である。
これを変位ベクトルという。
注3.5
この節では は微少量と考える。
定義3.6 歪テンソル
定理3.7 変形後の距離、体積
(証明)
前半部は代入して計算すればよい。ただし、2次以上の微少量は とする。
後半部は以下のように考える。
は対称行列なので、座標変換で対角化できる。
その座標で考えると、 。
ここで、 は の固有値。
これより がわかる。
よって、2次以上の微小量を無視すると、 。
固有値の総和はもとの行列のトレースに等しい。□
定義3.8 応力
連続体を境界面で2つの部分に分けて考えると、
それらは互いに力を及ぼし合っていると考えられる。
単位面積当たりのこの力を応力とよぶ。
定義3.9 応力テンソル
軸に垂直な面に作用する 軸方向の応力を と書く。
法線ベクトルが であるように面に作用する力の
軸方向の成分は となる。
注3.10
物体内の小さな部分にその表面から働く力の総和の 方向の成分は
で表される。ここで、 が表面を分割したものの面素ベクトル。
これを書き直すと、
すなわち、面からの力の総和が体積素 に対して
だけ働いていると考えることができる。
定理3.11 釣り合い方程式
物体の内部が釣り合い状態のとき、 。
重力を考えるなら、密度を として、 。
定理3.12
釣り合い状態のとき、応力テンソルは対称である。
すなわち、
(証明)
物体内に軸に沿った小さな立方体を考え、その表面で と を考える。
するとこれらの応力は立方体を反対方向に回転させるモーメントを生み出す。
( や は小立方体の反対のもの同士が打ち消し合う。)
よって、回転モーメントが釣り合っているためには、 。
他の方向も同様である。□
例3.13
周囲から一定の圧力 を受けている場合、その表面での応力テンソルは
。
定理3.14 変形する物体
(証明)
からさらに と変形したとする。
そのとき内部応力によって行われる仕事は
右辺第1項は無限遠(とても遠く)での表面上の応力テンソルを とすると消える。
第2項は対称性に着目して変形すると
よって、 。
他はルジャンドル変換ででる。□
系3.15
定理3.16 自由エネルギー、ラメ係数
等方な物体(結晶のように方向性がない物体)の自由エネルギーは
と書ける。、 は定数でラメ係数とよばれる。
(証明)
自由エネルギーを で展開することを考える。
歪みがないときには応力もない。
それは、 のとき ということだから、1次の項がない。
したがって、定数を除くと は2次の項からはじまると考えられる。
その一般形が定理にある式である。
言うまでもなく、高次の項は無視する。それが物理だから。□
注3.17
は「物体が変形していないときの自由エネルギー」なので、
今問題にしている「物理」に関与しない。
よって、以降は とする。
系3.18
(証明)
定理3.16と注3.17より は の2次式。
よって、 。
これに系3.15を使う。□
定義3.19 周辺圧縮率、剪断率
自由エネルギーは
とおくと
と書き換えられる。
この を周辺圧縮率、 は剪断率という。
注3.20
例3.13で見たように、周辺を一様に圧縮される場合、 となる。
したがって、 を
と分解すると、右辺第2項が圧縮による変形部分と考えられる。
(第1項のトレースは になることに注意。)
第1項を剪断歪、第2項を(一様周辺)圧縮歪などとよぶ。
定義3.19の はそれらに分けて書いたものである。
定理3.21
(証明)
物体は(系は) が極小のとき安定する。
そして、それは のときと考えられる。
そうなるために、定理が成り立っていなければならない。□
定理3.22
(証明)
前半は、定義3.19の を で微分すれば出る。
ここでトレースを取ると、 。
これを前半部に入れると後半部が出る。□
注3.23
定理3.20の前半は、剪断歪と圧縮歪が独立の係数を介して応力テンソルと
(混ざらずに)結びついているという事実を示している。
後半は、変形の大きさが応力の1次関数になっているという事実を示している。
これはフック則とよばれる。
ただし、フック則は、変形が小さいとして導いたので、一般には成り立たない。
定義3.24 均等変形
物体内のいたるところで歪テンソルが一定である変形を均等変形(均等歪)という。
例3.25 棒の引っ張り
これは均等変形と考える。(現実には実験によって確かめるしかない。)
棒を 軸方向に置き、その両端を圧力 で引っ張る。
すると、 軸方向、 軸方向の表面には力が働かない。
よって、 。
(均等変形だから、棒の表面だけでなく、どこでもそうなると考える。)
軸方向の端の表面を考えると、 。
以上より、
。
自由エネルギーは(後述の)ヤング率を使えば、 となる。
定義3.26 ヤング率、ポアソン比
例3.25の結果を次のようにまとめる。
ただし、
この をヤング率(引っ張り率)、 をポアッソン比という。
注3.27
だったので、
となる。
しかし、 が負とは、「棒の両端を引っ張ると横に膨張する」ということなので、
現実には見つかっていない(らしい)。
定理3.28
とすると、
(証明)
定理3.11の下の式を で書き直すと、
これを書き直す。□
定理3.29 運動方程式
重力を無視したときの運動方程式は次のようになる。
(証明)
ニュートンの運動方程式 より。□
注3.30
ラメ係数を使って書くと
。
注3.31
一般にベクトルは
ただし、
と分解できる。
定理3.32 波動方程式
を注3.31のように分解すると、それぞれは
を満たす。ただし、
とした。
(証明)
運動方程式を書き直すと、
ところで、 より とおける。
上の式に代入すると、 を使って 。
元に戻すと定理の上の式になる。
定理の下の式は明らか。□
注3.33
定理3.32の 、 は、2種類の波(縦波、横波)を表している。
、 はそれぞれ縦の音速、横の音速とよばれる。
これらは、圧縮率、剪断率、ラメ係数で書くと、
例3.34 1次元波動
が と時間にのみ依るとすると運動方程式は
ただし、 とした。
注0.1
物理学ミニマムは世間様に対して「私は物理学を勉強しました」と言える最低ライン。
と、書いたが、ヤング率とか、学生実験でわけもわからずやった記憶しかない。
そして、今やっとわかった。(30数年来の宿題がやっと終わった感である。)
友人たちは、私が知ってる限り、「弾性体つまんない」と言ってたような気がする。
(専門の先生、すみません。)
しかし、私は、学生実験はともかく、心惹かれるものがあった。
それは、なんだか応力テンソルが魅力的だったのだ。
参考書:
ランダウ・リフシッツ 弾性理論