物理学ミニマム(一般相対論)2
定義9.30 リーマンテンソル、リッチテンソル、スカラー曲率
リーマンテンソル:
リッチテンソル:
スカラー曲率:
注9.31
定義より、次の対称性が確認できる。
注9.32 リーマンテンソルの「導出」
1つのベクトル を
から に移し、
それから に移し、
それから に移し、
最後に に移すとする。
元の場所に戻った は元のものからずれているだろう。
世の中なんてそんなものである。
そのずれを とする。
微小量は無視しつつ、最初の2ステップから「最後の2ステップの逆」を引く、という荒業を使うと、
となることがわかる。
リーマンテンソル以外の登場人物がすべてベクトルなので、リーマンテンソルも
確かにテンソルである。
リーマンテンソルは他に(本質は同じだが)
のようにも登場する。
(証明)
微分も共変微分であるので、まじめにやると大変そう。
そこで、 の座標系を取る。
すると、
これをぐるぐるまわしたものを足しあわせれば になる。
この座標系で ということは、(左辺はテンソルだから)どの座標系でも と言える。□
原理9.34 アインシュタインの重力理論
重力場の作用は次のように書ける。
物質の作用は次のように書ける。
ここで は定数で、 は物質から作る適当なスカラー。
定義9.35 エネルギー運動量テンソル
の変分に対し
で定義される を物質のエネルギー運動量テンソルという。
例9.36 電磁場
電磁場も重力から見れば「物質」である。
その作用は
と考えられ、補題9.20から導かれる
を使って
となる。
これは、重力を入れたことを除けば、定義6.30と同じものである。
定義6.30の正当性については苦しんだ(注6.32)が、こう考えると極めて楽である。
定理9.37
補題9.38
座標変換に対して計量は次のように変換される。
ここで、 (ただし、 はとても小さい)とすると、計量の関数形の変化は
となる。
(補題9.38の証明)
1つめの式はテンソルの変換の定義である。
(ここがテンソルの定義の卒業点である。)
2つめの式は計量の関数の形がどう変わるかを示している。
1つめの式をまじめに計算すると、
これを書き直せば、2つ目の式になる。
(定理9.37の証明)
作用は座標変換に対して不変である。
当然、座標変換に一致する変分をしても作用は不変である。
その変分は、「座標の変化」と補題9.39の「計量の関数形の変化」に分けられる。
たとえば、粒子関連で「座標の変化分の係数にまとめられるもの」は粒子の運動方程式なので、
運動方程式を使えば になる。
座標変換でゲージ場も変化をするが、ゲージ場の変化分の係数にまとめられるものは
同様に、ゲージ場の運動方程式になり、 になる。
(ゲージ場も広義の座標なのである。)
よって、
補題9.38を使って、
。
が自由に選べるので証明された。□
注9.39 エネルギー・運動量の保存則
一般論として、作用がなんらかの不変性を持つと、それに対応する保存量がある。
(古典力学参照。)
エネルギー・運動量は、座標変換に対する保存量である。
しかし、定理9.38は、重力場中の物質のエネルギー運動量テンソルを見ているので、
これ自体は保存則になっていない。(重力場とのやり取りがある。)
しかし、(ややこしいが)これを平坦な空間(重力のない空間)に持っていくと、
そこでのエネルギー・運動量の保存則になっている。
平坦な空間での保存則は一般に
あるいは、
という形で示される。このとき、
と定義すると、
ここで、最後の積分は表面積分になり、 となる。(定理4.2参照)
したがって、定義9.35は重力と関係ない話でも役に立つ。
また、保存量は運動方程式(オイラー・ラグランジュ方程式)を使ってこそ、
保存していると言えることを指摘しておきたい。
例9.40 巨視的な物体のエネルギー運動量テンソル
巨視的な物体に関しては、しばしば、
と書かれる。ここで、 は圧力、 はエネルギー密度である。
圧力とは「物質間の力」を意味するが、(少なくともこの段階では)「現象論」だと思う。
物質間に力が働かない場合、かつ、1粒子の場合、
より、
( は粒子の位置を表す。)
となるから、
これは最初にあげた式の圧力を除いた部分である。
(今更だが、 はスカラーでなければならない。)
また、非相対論的な流体力学では、連続の式と運動方程式(定理4.15)より、
(4x4の行列のつもり)
(ただし、 (運動量流束という名前だった))
について、定理9.38と似た式(非相対論バージョン)を成り立つことが知られている。
これらをまとめると、最初の式はもっともらしいと言える。
特に、完全に静止している場合、上の式は
となり、一致していることがわかる。
定理9.41 重力場の方程式(アインシュタイン方程式)
補題9.42
変分に対し、次が成り立つ。
(補題9.42の証明)
定理9.16を見ると、 はテンソルではないが、 がテンソルとわかる。
(驚愕である。)
そこで局所的なガリレイ座標で計算すると、
これを共変なものにすると上の式が出る。
下の式は が共変微分で になることからわかる。
(定理9.41の証明)
原理9.34の作用の変分を取る。
物質部分は明らか。
最後の項は補題9.42より表面積分になって消える。
第2項は補題9.20を使って変形し、
以上より求まる。□
注9.43
アインシュタイン方程式の足の縮約をとると、
これを使うと、
とも書ける。
また、物質がない場合
定理9.44 ニュートンの重力場
質量 の質点が弱い重力場
を作ったと考えると、アインシュタイン方程式は次のように近似される。
(証明)
となる。
で微小量を無視して にならないのは のみとなるそうである。
また、 。
(以上の計算は追っていない。)□
注9.55
定理9.44の はポアソン方程式とよばれる。
その解は
これは良く知られたニュートンの重力理論である。
これより、 は普通 と書かれるものであることがわかる。
また、点電荷の理論と同様でもある。
定理9.56 シュバルツシルト解
次の計量はアインシュタイン方程式の解になっている。
ただし、
また、空間部分の座標は から にしている。
(証明)
計算により。
ただし、私はやっていない。
(大学の先生は「一生に一度くらいはやってもいいかもね」とおっしゃったような。)□
注9.57 シュバルツシルト半径
有名なシュバルツシルト解である。
それ以外にも解は多くあるが、これがもっとも単純なもので、中心対称な解である。
部分は、平坦な空間の角度部分と同じである。
つまり、この解は「 方向にのみにゆがんだ場」を考えていることになる。
はシュバルツシルト半径とか重力半径とよばれる。
特に、 が小さい場合、定理9.44の解と一致する。
つまり、ニュートンの重力理論を「重力が弱い場合の極限」として含んでいるのである。
地球の は計算すると だそうである。
ただし、地球は点ではなく、したがってその範囲に収まっていないので、
地球の に現実的な意味はない。
地球外では、重力のポテンシャルは、地球の全質量( とする)を
中心点においた と同じになる。
地球の内部では、「中心からそこまでの距離」を半径とする範囲内の全質量 を
中心点においた と同じである。
は地球の質量 より小さくなっていて、その は元の より小さい。
したがって、地球をどんなに掘り進んでも、その範囲でのシュバルツシルト半径より
深いところにはいけず、やっぱりニュートンの理論が有効なのである。
しかし、もし、地球を圧縮して、半径 以下にしたら、その内部に行けることに
なるので、そのときは、とんでもないことが起こる。
注9.58 水星の近日点移動
なお、太陽系を観測すると、「水星の近日点の移動」という形でニュートン理論からの
ずれが観測される。
ここでは、計算は追わずに結果のみ述べる。(追ってないから。)
大きな目で見ると、太陽も惑星も質点である。
ニュートンの理論に従うなら、大きな質量(太陽)に捕らえられた質点(惑星)について、
エネルギーの保存則が次のように書ける。
エネルギーの保存則とは、この が定数ということである。
(2体問題の換算質量という、ちょっとした話があるが、
大雑把に言えば、 は惑星の質量、 は「×惑星の質量×太陽の質量」である。)
また、中心対象なポテンシャルなので角運動量の保存則も成り立つ。
この が角運動量で、定数である。
これらから、
これは積分できてしまい、
ただし、
となる。これは楕円である。
すなわち、よく知られたように、惑星は厳密には円運動ではなく、楕円運動をしている。
これ自体、楕円の神秘性がうかがえる美しい話だと思う。
しかし、より厳密には、惑星は楕円運動ではなく、楕円が少しずつ回転していくような
運動をしているという。
太陽に一番近い点を「惑星の近日点」というなら、近日点が回転するたびに少しずつ
ずれていくということである。これを近日点の移動という。
アインシュタインの理論によれば、重力場中の質点は測地線にそって動く。
太陽の作る場をシュバルツシルト解とすると、惑星の運動は次のようになるそうだ。
これで水星の近日点移動が説明できるという。
(水星が太陽に一番近く、重力も強いから、観測しやすいはずである。)
注9.59 ブラックホール
恒星は内部で核融合をしているが、その出力が下がると、自重によりつぶれていく。
ある程度つぶれると、物質の圧力が上がって止まると考えられるが、
重い星の場合、物質の圧力では止まらず、そのままシュバルツシルト半径の内部まで
いってしまうという。
このような現象を重力崩壊、その生成物をブラックホールなどという。
シュバルツシルト解を見ると、 で発散するように見える。
しかし、曲率などは発散しておらず、これは「見かけの特異点」などという。
(適当な座標を取れば、発散がないようにできる。)
それに対して、 は真の特異点である。
注9.60 ブラックホールに関する考察
簡単のため、角度方向には動かず、 方向のみの運動を考える。
光の路は で決まるので、見かけの光速は
となる。
シュバルツシルト半径外では(というか、内部は慎重に考えるべきだろう)、
「光はブラックホールに近づくにつれ遅くなり、シュバルツシルト面で止まる」と
いうことになる。
シュバルツシルト解を座標に採用している人にはそう見えるということである。
「重力が強いと時間が遅くなる」という事実とも感覚的にあっていると思う。
質量のある粒子のエネルギーは
粒子が無限遠で止まっていたとすると、 が保存されるから
となる。
これもやはりシュバルツシルト面で になる。
これが、本人にどう見えるかというと、
(粒子(その場にいる人)に見える空間の距離は
である。
空間の距離は、一般には時間部分と混じるが、それは を
通してであり、今の場合、それは である。)
すると、
となるから、本人的にはどんどん加速して光速に近づいていると感じるだろう。
固有時間は
となる。
無限遠から出発しているので、当然、無限の(固有)時間になるが、
途中からはじめれば、シュバルツシルト面の通過は有限時間で済むことがわかる。
(実際、本人的には加速しているのだから、そうなるだろう。)
シュバルツシルト半径内(ブラックホール内とよぶ)ではどうなっているか。
、 の係数の符号が変わるので、ブラックホール内では
時間と空間の役割が入れ替わっていることになる。
しかし、これは、よく考えなければいけないだろう。
座標を取り直して(たとえば、クルスカル座標)考えると、「光ですら外に出られない」
などということが言える。
しかし、ここでは省略する。
定理9.61 重力波
とおく。
ただし、 は小さい量とする。
ここで、
として、物質がないとすると、
(証明)
計算である。
注9.62
は
が座標変換による不定性を持つために、そのようにおける。
(あるいは、その不定性を(一部)消すためにそのように置いた、とも言える。)
この方程式は電磁波の場合とほぼ同じである。
つまり、波の式である。
これをまじめに解析すると、平面波の独立な成分は と だけの横波であることもわかる。
(ここでは省略。)
定義9.62 ロバートソン・ウォーカー計量
ここで で、これは の係数の符号を表す定数。
また、 は時間にのみよる関数とする。
注9.63
ロバートソン・ウォーカー計量は、「空間部分が一様等方」という条件から導かれる。
まず、
とおく。
これから3次元部分のスカラー曲率を計算し、それを とおき、 で とすると、
となる。
これから変数変換をすると、定義9.62の形になる。
この段階では、これはただ「こういう形の計量」というだけで、物理的な意味はない。
しかし、これをアインシュタイン方程式に代入すると、 に関する式が得られ、
その解は、「宇宙全体の計量」(の候補)と考えられる。
定義9.64 開いた宇宙、閉じた宇宙
計量にしたがって全宇宙の体積を計算すると、 のときだけ有限になる。
このとき、宇宙は閉じているという。
また、体積が無限のとき、宇宙は開いているという。
我々の宇宙が閉じているか開いているかは観測によって決められる。
定義9.65 宇宙定数
重力の作用に次の項を含めて考えることもある。
ここで、 は宇宙定数とよばれる定数である。
注9.66
宇宙定数をいれることで、アインシュタイン方程式は次のようになる。
以下では、この項もいれて考察する。
これは「宇宙にあまねく存在する定エネルギー」のようなものだから、「哲学的」に
賛成できない人も多く、観測的にも「あってもとても小さい」とされている。
もちろん、 とおけば、元に戻る。
定理9.67 フリードマンの膨張方程式
例9.37の で として、ロバートソン・ウォーカー計量を
アインシュタイン方程式に(注9.65)代入すると、 に関して次の方程式を得る。
ただし、同じくアインシュタイン方程式より、
がわかり、
とする。
ただし、 の場合は除く。
(証明)
計算だと思う。(やってない。)
注9.68 アインシュタインの静止宇宙
の場合、
フリードマンの式を出す前に
が出る。
アインシュタインは宇宙を定常的(静止的)と考え、そのような解を出すために、
宇宙定数をいれたという。
しかし、その後、宇宙は定常的ではないことが観測された。
注9.69 ハッブルの法則
ハッブルは遠い銀河は距離に比例する速さで遠ざかっていることを発見した。
この はハッブル定数とよばれる。
これが宇宙が膨張している証拠と考えられている。
ハッブル定数の逆数はだいたい「宇宙の年齢」と考えられ、
だいたい140億年くらいらしい。
しかし、測定は難しいと聞いた。
注9.70 宇宙
フリードマンの式にはいくつも解が知られている。
たとえば、 の解はフリードマン宇宙などとよばれ、
で のときの解はド・ジッター宇宙などとよばれる。
そのどれが正しいかは、今後の研究によって決められるのだろう。
参考書:
場の古典論 ランダウ・リフシッツ
相対論 平川浩正
宇宙物理学 (懐かしの)岩波講座
注0.10
後半は(もっとかな?)計算を追っていないので、内心忸怩たる思いである。
ブラックホールの中には尽きない興味があるが、それが物理かというとあやしい。
「ブラックホール内では時間と空間の役割が入れ替わる」と、先生がおっしゃったとき
教室中がショックでざわめいた。ような気がする。
クルスカル座標というのがあって、それがスタンダードだと思っていたが、
今見ると、ランダウ先生の本にもワインバーグ先生の本にもなくて、驚いている。
ところで、ブラックホールはすべてを飲み込んでしまうのでそういう名前だが、
それでは見つからないかというと、「ブラックホールに飲み込まれる物質(荷電粒子)が
強力な電磁波を出すから見える」と聞いた。
しかし、荷電粒子が巨大な星に引き込まれるときと区別がつくのか?
(星の周りだって、シュバルツシルト解なんだから。)
という疑問がわいて、いろいろな人(主に同級生)に、思い出したときに、聞いた。
たいていの返事はモヤモヤしたものだったが、「物質が星と衝突しない、というまさに
そのことによって、特徴的な電磁波が出る(出ない)からわかるのだ」と言った人がいて、
「なるほど〜」と思った記憶がある。
この答が正しいかどうか知らないが、個人的には納得している。