物理学ミニマム(場の理論)1

注0.11
本節は「物理」から切り離し、場の理論の構造のみを見る。
場の理論とは何か、大きく言うと「この世のすべてを説明しようとする理論」であり、
小さく言うと「粒子が衝突したときにどうなるかを確率的に予言する理論」である。
前者は胸にしまって、ここでは、後者の立場を取る。
(「この世のすべてを説明する理論」の候補としては、すっかり、ストリング理論に
 とってかわられてしまった?
 しかし、ストリング理論もいろいろな意味で場の理論だと思う。)

§10 場の理論

定義10.1
物理的性質をもった空間(時空)を場とよぶ。
場はその時空の座標を定義域とする関数で表される。
値域はその都度適当に選ばれる。
場を表す関数は、一般に、粒子を生成消滅させる演算子と考える。
それを強調する場合は「場の演算子」ともいうが、それを単に「場」ともよぶ。

注10.2
定義域である時空は、この節では平坦な4次元時空とする。
物性理論等で使う場合は、低い次元にしたり、ローレンツ対称性を持たせないこともある。
値域は、とりあえず、実数か複素数と考えておけばよい(と思う)。
一般に、粒子は(エネルギーを得て)生成されたり、(エネルギーを渡して)消滅するが、
それは「粒子の場があるから」と考える。

なお、この節では c\hspace{3}=\hspace{3}1,\hspace{6}\hbar\hspace{3}=\hspace{3}1 とする。
これを自然単位系という。
また、時空の添字に限らず、同じ添字が1つの式に2回出てきたら、和を取ることにする。
時空の添字ではないので「上げ下げ」は考えない。

定義10.3 粒子の種類
粒子はローレンツ群の表現になっている。
(つまり、ローレンツ変換に対して、線形の変換を受ける。)
その表現は、スピンとよばれる整数か半奇数(まとめると、整数/2)で区別される。
スピンが整数の粒子はボソン、半奇数の粒子はフェルミオンとよばれる。
特に、スピンが 0 の粒子(変換を受けない粒子)はスカラー粒子、
1 の粒子(ベクトル的に変換される粒子)はベクトル粒子、
スピンが \frac{1}{2} の粒子はディラック粒子などとよばれる(後述)。
(そのときのノリでスカラーボソンとか、ディラックフェルミオンなどともいう。)

定義10.4 グラスマン数
   \eta^2\hspace{3}=\hspace{3}0\hspace{9}(\hspace{3}\eta\hspace{3}\neq\hspace{3}0\hspace{3})
となるような「数」をグラスマン数という。
複数ある場合は、
   \eta_i \eta_j\hspace{3}+\hspace{3}\eta_j \eta_i\hspace{3}=\hspace{3}0
となる。
フェルミオン演算子は、グラスマン数的になる。

注10.5
フェルミオン演算子\psi_i(x) などとし、 \psi_i\psi_j がまったく無関係のものとすると、
   \psi_i(x)\psi_j(y)\hspace{3}+\hspace{3}\psi_j(y)\psi_i(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
となる。

原理10.6 作用
場についてラグランジアン \cal{L} があり、最小作用の原理から、場の演算子が満たすべき
運動方程式が導かれる。
   S\hspace{3}=\hspace{3}\int d^4x\hspace{3}\cal{L}

例10.7
スカラー粒子
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}[(\partial\hspace{3}\phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}\phi^2]\hspace{3}-\hspace{3}\lambda\hspace{3}\phi^4
ディラック粒子+質量0ベクトル粒子
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\bar{\psi}(i\gamma\cdot\partial\hspace{3}-\hspace{3}m)\psi\hspace{3}-\hspace{3}\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}\hspace{3}+\hspace{3}e\bar{\psi}\gamma^\mu\psi A_\mu

(\partial \phi)^2\partial_\mu \phi \partial^\mu \phi の略記。
m は質量。\lambdae は適当な定数。
\gamma\cdot\partial\gamma^\mu\partial_\mu の略記で、 \gamma^\mu はガンマ行列とよばれる行列である(後述)。
\gamma\cdot\partial については、個人的にもっと好きなスラッシュをいれる略記法があるが、
ここの minilatex では表現できないらしい。)
さらに、 \bar{\psi}\hspace{3}=\hspace{3}\psi^{+}\gamma^0複素共役\gamma^0 をかけたもの)である。
最後に、 F_{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}\partial_\mu A_\nu\hspace{3}-\hspace{3}\partial_\nu A_\mu

定義10.8 ガンマ行列(ディラック行列)
ガンマ行列は以下の交換関係を満たす 4 x 4 の行列である。
   \{\gamma^\mu,\hspace{3}\gamma^\nu\}\hspace{3}=\hspace{3}2\eta^{\mu\nu}
ここで \{\gamma^\mu,\hspace{3}\gamma^\nu\}\hspace{3}=\hspace{3}\gamma^\mu \hspace{3}\gamma^\nu\hspace{3}+\hspace{3}\gamma^\nu \hspace{3}\gamma^\mu  (反交換子)。
また、\gamma^0 はエルミートで、他は反エルミートとする。
また、次のような行列も利用される。
   \sigma^{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{i}{2}[\gamma^\mu,\hspace{3}\gamma^\nu]    (カッコは交換子)
   \gamma^5\hspace{3}=\hspace{3}\gamma_5\hspace{3}=\hspace{3}i\gamma^0\gamma^1\gamma^2\gamma^3
特にスタンダードな表式は以下の通り。
ただし、I は 2 x 2 の単位行列とし、\sigma^i\sigma_x,\hspace{3}\sigma_y,\hspace{3}\sigma_z とする。
  \gamma^0 =  \left(    \begin{array}{cc}      I & 0 \\      0 & -I     \end{array}  \right)   \gamma^i =  \left(    \begin{array}{cc}      0 & \sigma^i \\      -\sigma^i & 0     \end{array}  \right)

注10.9 ローレンツン変換
スカラー粒子はローレンツ変換を受けない。
ベクトル粒子はローレンツ変換 \Lambda^\mu\hspace{3}_\nu に対し、
   A'^\mu(x')\hspace{3}=\hspace{3}\Lambda^\mu\hspace{3}_\nu\hspace{3}A^\nu(x)
となる。
ところで、このような変換は微小変換の積み上げと考えることができる。
逆に微小変換がわかれば、微小でない変換も得られる。
そこで、ここでは簡単のため微小変換を
   \Lambda^\mu\hspace{3}_\nu\hspace{3}=\hspace{3}\delta^\mu_\nu\hspace{3}+\hspace{3}\omega^\mu\hspace{3}_\nu
と考える。ここで \omega^\mu\hspace{3}_\nu が微小とする。
このように準備して、ディラック粒子は
   \psi'(x')\hspace{3}=\hspace{3}(1\hspace{3}-\hspace{3}\frac{i}{4}\sigma_{\mu\nu}\omega^{\mu\nu})\psi
と変換されるとする。
このように変換されるものを「スピン \frac{1}{2}」というわけである。
この変換に対して、例10.7のラグランジアンは不変に作られている。
\gamma^0 \sigma^{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}(\sigma^{\mu\nu})^+\gamma^0 を使うと確かめられる。)
 
量子力学でやったスピンと同じかというと、本質的には同じである。
場の演算子は粒子を表し、それらはローレンツ変換のもとできれいに変換する。
ローレンツ変換の集まりをローレンツ群というので、「粒子は(あるいは、場は)
ローレンツ群の表現になっている」という。
ところで、ローレンツ群の中には回転群(回転変換の集まり)がある。
したがって、粒子は回転群の表現にもなっていて、それはローレンツ群の表現と
矛盾しないようにできている。
一方、非相対論な量子力学ローレンツ対称性はないが、回転対称性は(多くの場合)ある。
特に、粒子はそれ自体が回転群の表現になっている。
それらの表現を区別するのが、スピンなのだった。
したがって、場の理論でいうスピンはローレンツ群に対して言われる言葉であり、
量子力学でいうスピンは回転群に対して言われる言葉であるが、前者が後者を
含んでいるわけである。

定理10.10 オイラーラグランジュ方程式
場を \varphi_r とすると、
   \partial_\mu\hspace{3}\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu\varphi_r)}\hspace{3}-\hspace{3}\frac{\partial \cal{L}}{\partial \varphi_r}\hspace{3}=\hspace{3}0

(証明)
   \delta S\hspace{3}=\hspace{3}\int d^4x\hspace{3}\delta\hspace{3}\cal{L}
    \hspace{3}=\hspace{3}\int d^4x\hspace{3}[\frac{\partial \cal{L}}{\partial \varphi_r}\hspace{3}\delta \varphi_r\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu \varphi_r)}\hspace{3}\partial_\mu\delta\varphi_r]
    \hspace{3}=\hspace{3}\int d^4x\hspace{3}[\frac{\partial \cal{L}}{\partial \varphi_r}\hspace{3}\delta \varphi_r\hspace{3}-\hspace{3}\partial_\mu\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu \varphi_r)}\hspace{3}\delta\varphi_r]\hspace{3}+\hspace{3}\partial_\mu(\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu \varphi_r)}\hspace{3}\delta\varphi_r)
最後の項は表面積分になるので 0 となる。□

例10.11
例10.7の場合、
   (\partial_\mu\partial^\mu\hspace{3}+\hspace{3}m^2)\phi(x)\hspace{3}+\hspace{3}4\lambda\phi(x)^3\hspace{3}=\hspace{3}0
   i\gamma^\mu(\partial_\mu\hspace{3}-\hspace{3}ieA_\mu)\psi(x)\hspace{3}-\hspace{3}m\psi(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
   \partial_\mu F^{\mu\nu}(x)\hspace{3}+\hspace{3}e\bar{\psi}(x)\gamma^\nu\psi(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
ディラック場については、\psi\bar{\psi} は独立したものと考えるとすぐ出せる。
(それでも正しいものになる。)
これらは、簡単に「運動方程式」などともいう。
非線形なので一般に解くのは難しい。
また、解けたとしてもそれは「古典解」とよばれる。
場は演算子であるので、完全な解決ではないのである。

なお、最後の式は e\bar{\psi}(x)\gamma^\mu\psi(x)j_\mu (に係数をつけたもの)
とすれば、ちゃんとマックスウェルの方程式(定理6.14)になっている。
(第6節と係数が違っている。原理6.4と例10.7参照。これは流派の違いである。)
以上より、 e\bar{\psi}(x)\gamma^\mu\psi(x) などをカレント(流れ)ということが多い。

\lambdae のついた項は場同士の相互作用を表す。
\lambdae 自体は「相互作用の強さ」を表すので「結合定数」ともよばれる。)
このような事情から、ラグランジアン
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\cal{L}_0\hspace{3}+\hspace{3}\cal{L}_{int}
などと分けて考えることもある。
ここで \cal{L}_0 は場の2次の項である。
相互作用項を考えない場合の場を「自由場」などという。

基本的に、実験は、最初に十分離れていた粒子をぶつけ合い、結果の粒子が
十分離れてから観測する。粒子がお互いに十分離れている場合、他の粒子との
相互作用はない(ほとんどない)と考えられる。
(激しく相互作用を繰り返しているまさにその瞬間をとらえるのは難しいと思う。
 粒子が最初2個でも、生成消滅を繰り返し、いくらでも多くの粒子が顔を出すから。)
その場合、「自由場」で考えることが妥当だろうから、自由場は重要である。

しかし、本当に自由な場があれば、それは相互作用をしないのだから、
宇宙の始めから終わりまで、増えも減りもせず、決して観測されないという粒子になる。
物理学者の「観測できないものは存在しない(考慮しない)」という信念に従えば、
それは物理学の対象でなくなる。
相互作用は「おまけ」ではなく、重要なのである。

定義10.12 自由場の運動方程式とその解
自由場は次の運動方程式を満たす。
   (\partial_\mu\partial^\mu\hspace{3}+\hspace{3}m^2)\phi(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
   (i\gamma\cdot\partial-\hspace{3}m)\psi(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
   \partial_\mu F^{\mu\nu}(x)\hspace{3}=\hspace{3}0
特に1番上は、クライン・ゴルドン方程式、2番目はディラック方程式とよばれる。
また、3番目の式は「物質がないときのマックスウェル方程式」である。
どれも、基本的な解は e^{-ikx} (ただし、 k^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}=\hspace{3}0 )に比例したものになる。
(最後の式では質量が 0 。定理6.14、定理6.40を参照。)

たとえば、体積 V の大きな空間内で考え、\omega_k\hspace{3}=\hspace{3}\sqrt{\bf{k}\cdot\bf{k}\hspace{3}+\hspace{3}m^2} とすると、
スカラー粒子:
   \phi(x)\hspace{3}=\hspace{3}\sum_k\frac{1}{\sqrt{2\omega_k\hspace{1}V}}[a_k\hspace{3}e^{-ikx}\hspace{3}+\hspace{3}a^+_k\hspace{3}e^{ikx}]
ディラック粒子:
   \psi(x)\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{k,\hspace{3}r}\sqrt{\frac{m}{\omega_k\hspace{1}V}}[a_{k,r}u_r(k)e^{-ikx}\hspace{3}+\hspace{3}b^+_{k,r}v_r(k)e^{ikx}]
   \bar{\psi}(x)\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{k,\hspace{3}r}\sqrt{\frac{m}{\omega_k\hspace{1}V}}[a^+_{k,r}\bar{u}_r(k)e^{ikx}\hspace{3}+\hspace{3}b_{k,r}\bar{v}_r(k)e^{-ikx}]
などとなる。
ただし、 u_r,\hspace{3}v_r\hspace{9}(\hspace{3}r\hspace{3}=\hspace{3}1,\hspace{3}2\hspace{3}) は、それぞれが4成分の"列ベクトル"。
(タイプが大変だし、長いので具体的な形は省略する。)
そして、 a_ka_{k,\hspace{3}r}b_{k,\hspace{3}r} は(ここでは)任意の定数。
(つまり、それらは「重ね合わせができる基本解たちの係数」ということである。)

定理10.13 ネーターカレンント
ラグランジアン\varphi_r\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}\varphi_r\hspace{3}+\hspace{3}\epsilon^A\hspace{3}X^A\hspace{3}_r という変化に対して不変なら
   \partial_\mu J^{A\mu}\hspace{3}=\hspace{3}0
ただし、
   J^{A\mu}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu \varphi_r)} X^A\hspace{3}_r
これをネーターカレントなどという。
なお、ここでは \epsilon^A は微小な定数とする。

(証明)
定理10.10の証明をじっと見るとわかる。

注10.14
\partial_\mu J^{A\mu}\hspace{3}=\hspace{3}0のような場合、J^{A\mu} を保存カレントなどという。
定理4.2、注9.39を参照。
当然、保存量は
   Q^A\hspace{3}=\hspace{3}\int\hspace{3}d^3x\hspace{3}J^{A0}
である。

このネーターさんが、あのネーターさん(環の人)と同じ人と知って本当に驚いた。
定理10.10からいうと、「まあそうだろう」という程度の感想しか持たないかもしれないが、
大変に美しくまた豊穣な定理だと思う。
ここから対称性が破れると、これまた超絶美しい南部・ゴールドストン定理になる。
私の青春はだいたいこの近辺にあった。

例10.15 電流
ディラック場のラグランジアン
   \psi\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}e^{i\theta}\psi
に対して不変である。
これを微小変換で書くと、
   \psi\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}\psi\hspace{3}+\hspace{3}i\theta\hspace{3}\psi
この i\theta が一成分のみの \epsilon である。
このとき、カレントは
   J^\mu\hspace{3}=\hspace{3}\bar{\psi}\gamma^\mu\psi
となる。
これは e をかければ(1粒子のになう)電流である。

系10.16
定理10.12の条件でラグランジアンが完全に不変でなくとも何かの発散項
   \delta\cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\partial_\mu\hspace{3}(\epsilon^A K^{A\mu})
となっていれば、
   J^{A\mu}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\mu \varphi_r)} X^A\hspace{3}_r\hspace{3}-\hspace{3}K^{A\mu}
が保存カレントになる。

例10.17 エネルギー運動量テンソル
ラグランジアンの変化が発散項になるということは、作用自体は不変ということである。
積分すると表面項になるから。)

実は、エネルギー運動量テンソルが系10.14の例になっている。
   T^{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}\partial^\mu\varphi_r\frac{\partial \cal{L}}{\partial (\partial_\nu \varphi_r)}\hspace{3}-\hspace{3}\eta^{\mu\nu}\cal{L}
これは、並進( \varphi_r\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}\varphi_r\hspace{3}-\hspace{3}\xi^\mu\hspace{3}\partial_\mu\varphi_r )に対する不変性からくる保存則なのである。
これは、「空間や時間をそっとずらしても物理は変わらない」という不変性である。
\varphi'_r(x')\hspace{3}=\hspace{3}\varphi_r(x)\hspace{15}(\hspace{3}x'\hspace{3}=\hspace{3}x\hspace{3}+\hspace{3}\xi\hspace{3}) に対する不変性。)
これまで何度も出てきたものと同じものである。
注6.32、注9.39参照。(注9.39とは導出方法が少し違って見える。)

ローレンツ群に並進変換までいれた群をポアンカレ群という。
ローレンツ変換に対する不変性からくる保存量は(4次元に拡張した)角運動量である。

発散項が出る場合と出ない場合の違いが気になるが、普通に考えれば、
発散項は「時空に関連する変換(による不変性)」でしか出ないだろう。
時空に関連する「物理を変えない変換」の集まりとしてはローレンツ群、ポアンカレ群、
それを少し拡張した共形変換群くらいしかなさそうである。

原理10.18 場の同時刻交換関係・反交換関係
スカラー場:
\pi(x^0,\hspace{3}\bf{x})\hspace{3}=\hspace{3}\partial_0\phi(x^0,\hspace{3}\bf{x}) とし、
   [\phi(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\phi(x^0,\hspace{3}\bf{y})]\hspace{3}=\hspace{3}0
   [\pi(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\phi(x^0,\hspace{3}\bf{y})]\hspace{3}=\hspace{3}-i\delta^{(3)}(\bf{x}\hspace{3}-\hspace{3}\bf{y})
   [\pi(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\pi(x^0,\hspace{3}\bf{y})]\hspace{3}=\hspace{3}0

ディラック場:
\pi(x^0,\hspace{3}\bf{x})\hspace{3}=\hspace{3}i\psi^+(x^0,\hspace{3}\bf{x}) とし、
   \{\psi^\alpha(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\psi^\beta(x^0,\hspace{3}\bf{y})\}\hspace{3}=\hspace{3}0
   \{\pi^\alpha(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\psi^\beta(x^0,\hspace{3}\bf{y})\}\hspace{3}=\hspace{3}i\delta^{(3)}(\bf{x}\hspace{3}-\hspace{3}\bf{y})\delta^{\alpha\beta}
   \{\psi^\alpha(x^0,\hspace{3}\bf{x}),\hspace{3}\psi^\beta(x^0,\hspace{3}\bf{y})\}\hspace{3}=\hspace{3}0
  (\alpha,\hspace{3}\beta は4成分の足。)

異なるボソン場同士、ボソン場とフェルミオン場は可換、フェルミオン場同士は反可換。
同じ種類の場の非同時刻の関係は複雑である。
ただし、それらの座標が空間的であれば(つまり、 (x\hspace{3}-\hspace{3}y)^2\hspace{3}<\hspace{3}0 )、
光速より速く情報は伝わらないので、(反)可換となる。

注10.19
時間成分を特別扱いしているので、(特殊)相対論的にかっこうよくはないが、
[p,\hspace{3}x]\hspace{3}=\hspace{3}-i\hbar の自然な拡張になっている。

定義10.20 真空、期待値
場の演算子は真空に作用する。真空は |0> で表す。
その"共役な真空"を <0| で表す。
これらは"内積"がとれ、 <0|0>\hspace{3}=\hspace{3}1 とする。
(真ん中の棒は、まじめに書けば2本になりそうだが、重なるので1本にしている。)
演算子 A(x) の真空への作用は A(x)|0><0|A(x) などと書く。
また、場の期待値は <0|A(x)|0> と書く。

注10.21
これらが何かということは、今後の話の中で現れるもののみから判断すべきかもしれない。
しかし、イメージはあると思うので、それを書く。
ただし、イメージなので、正確な記述ではない。
まず、 |0> は、「始めの真空」、 <0| は「終わりの真空」である。
(始めとか終わりとか、イメージである。)
場の演算子 \varphi(x) は時空の点 x で粒子を生成するか消滅させる。
したがって、\varphi(x)|0> は真空に粒子を1つ生成したと考えられる。
(真空は何もないのだから、「粒子の消滅」はない。)
一方、<0|\varphi(x) は粒子を1つ消滅させて真空にすることを意味する。
(最後は真空なので、今度はすでにあるものを消滅させるしかない。)
このように |0> やそれに演算子がかかったものは「状態を表すもの」であり、
状態ベクトルなどともよばれる。(ローレンツ変換に対する「ベクトル」という意味ではない。)
これは、量子力学波動関数に相当するものでもある。
そして、<0|\varphi(y)\varphi(x)|0>x で生成された粒子が y で消滅する
確率振幅を表している。
確率振幅とは、その2乗がそうなる確率を表すものである。

定理10.22 自由場の演算子
自由場の演算子を定義10.12のように展開すると、a_ka_{k,\hspace{3}r}b_{k,\hspace{3}r}演算子となる。
それらは、次の交換関係・反交換関係を満たす。

スカラー粒子:
   [a_k,\hspace{6}a_l]\hspace{3}=\hspace{3}0,\hspace{9}[a^+_k,\hspace{6}a^+_l]\hspace{3}=\hspace{3}0,\hspace{9}[a_k,\hspace{6}a^+_l]\hspace{3}=\hspace{3}\delta_{kl}
ディラック粒子:
   \{a_{k,r},\hspace{6}a^+_{l,s}\}\hspace{3}=\hspace{3}\delta_{kl}\delta_{rs},\hspace{9}\{b_{k,r},\hspace{6}b^+_{l,s}\}\hspace{3}=\hspace{3}\delta_{kl}\delta_{rs}
   他の反交換子はすべて 0

(証明)
原理10.18を使う。

注10.23
a_k の交換関係は、調和振動子のものとなっている(注7.33)。
調和振動子の状態は整数で表される。
   (a^+)^n\hspace{3}|0>\hspace{3}=\hspace{3}C_n\hspace{3}|n>,\hspace{9}a\hspace{3}|0>\hspace{3}=\hspace{3}0
  (ここで C_n は規格化のための定数。)

定理10.22を見ると、「自由場は調和振動子が無限個ある」ということである。
定義10.20の真空に場の演算子を作用させると、
   \phi(x)\hspace{3}|0>\hspace{3}=\hspace{3}\sum_k\frac{1}{\sqrt{2\omega_k\hspace{1}V}}\hspace{3}e^{ikx}\hspace{3}a^+_k\hspace{3}|0>
となるが、最初の粒子の運動量が1つに決まっていた(たとえば、k )とするなら、これは
   \frac{1}{\sqrt{2\omega_k\hspace{1}V}}\hspace{3}e^{ikx}\hspace{3}|1_k>
となり、 \frac{1}{\sqrt{2\omega_k\hspace{1}V}}\hspace{3}e^{ikx} という波動が"1つ"励起されたことを意味する。
(ここで |1_k> は「運動量 k調和振動子の第一励起状態」という気持ちで書いた。
 良い書き方かどうか知らない。)
したがって、一般的な状態 \phi(x_1)\phi(x_2)\hspace{3}\cdots\hspace{3}|0> は、
「基本解で表される波動がいくつも励起された状態」を表すことになる。
これは、「波=粒子」のイメージにもよくあうと思う。
(「自由場は調和振動子の集まり」などとも言う。)
ディラック場の場合も同様である。

さらに、定理10.22の結果を用いて、同時刻に限らない交換関係を導き出すこともできる。
しかし、それは相互作用がない場合のみということを強調しておきたい。
一方、原理10.18は、相互作用があってもなくても成り立つのである。

注10.24 ハイゼンベルグ表示、シュレディンガー表示、相互作用表示
ここでは、場の演算子が時空の関数である。
つまり、「場の演算子が時間に伴って変化する」と考えられる。
その場合、状態ベクトル|0>|1_k> など)は時間に依存しない。
(もちろん、「時間に依存する演算子を作用させていない状態ベクトル」については、である。)
しかし、(第7節で見た)量子力学では、演算子 p_x\hspace{3}=\hspace{3}-i\hbar\frac{\partial}{\partial x} などは時間に依らず、
状態を表すもの(状態ベクトル波動関数)が時間に依存する。
実は、場の理論でも、演算子が時間に依存せず、状態ベクトルが時間に依存するように
構成することができる。
そのような構成(実は、表示)をシュレディンガー表示と言う。
一方、ここで扱っている「演算子が時間に依存する」方式は、ハイゼンベルグ表示という。
(ハイゼンベルグ表示の量子力学もできる。)
また、それらの「中間系」として、相互作用表示もある。
これらは、簡単に変換できる同値な定式化(表示方法)である。
ここでは、特に断らない限り、ハイゼンベルグ表示で記述する。




参考書:
現代的な視点からの場の量子論 ナイア
(復習用に買ったらかなりの当たりだった。と思う。)

注0.12
どうでもよいことだけど、「生成する」は他動詞で、「消滅する」は自動詞
という事実に今更気づいて愕然としている。
この非対称性ゆえに、文章がものすごく書きにくい。