物理学ミニマム(場の理論)2
定義10.25 時間順序積
2つのボソン演算子について、次のようなものを時間順序積という。
( のとき)
( のとき)
ヘヴィサイドの関数
を使って、
とも書ける。
フェルミオン演算子については、次のようにする。
( のとき)
( のとき)
あるいは、
演算子が2つ以上ある場合も同様に定義する。
定義10.26 N点関数
注10.27
N点関数は、粒子がN点で生成されるか消滅する確率振幅を表す。
たとえば、 の を にし、
の を にすると、
これは「遠い過去に 個の粒子が生成され、相互作用(衝突)をし、
遠い未来に 個になる確率振幅」ということになる。
2点関数は同様のものを注10.21で書いた。
ただし、定義10.25では時間順序積をいれている。
これは、「時間的により昔にある演算子が粒子を生成し、
未来にある演算子がその粒子を消滅させる」ためと言える。
(注10.21は、むしろ時間順序をぼんやり書いた。)
よりもっともらしい(しかし、ものすごく長い)説明もあるが、ここでは省略する。
いずれにしても、そういうものなのである。
「物理」として観測されるのはN点関数なので、「N点関数さえ計算できればよい」と
いう発想と「その計算法の正当性を吟味する」という発想がある。
当然、普通は、正当性に興味を持つだろう。
しかし、ミニマムとしては、まず計算法を見てからでもよいのではないだろうか。
定義10.28 N点関数の生成汎関数
ここで、 は適当な関数で、ソース関数などとよばれる。
場がフェルミオンの場合は
ここで はグラスマン数に値を持つソース関数である。
注10.29
この節の(おそらく、場の理論の)核心である。
これが計算できれば、N点関数は次のように求められる。
生成汎関数の「計算」に、同時刻交換関係と運動方程式を使うのである。
定義10.30 ファイマンの伝搬関数
ただし、 は正の無限に小さい実数で、ことがすめば にする。
をファイマンの伝搬関数とか、プロパゲーターという。
定理10.31
(証明)
を使う。
上の式は を作用させて を にすれば導ける。
( はいつもそんな風に扱う。)
また、ガンマ行列の反交換関係より となる。
これを使うと、下の式も導かれる。
注10.32
伝搬関数は、たぶん、多くの人は、プロパゲーターと発音する。
しかし、カタカナで書くとなんだか落ち着かない気分になる。
定理10.27の式の右辺を にすれば、クライン・ゴルドン方程式とディラック方程式になる。
つまり、これらはクライン・ゴルドン方程式、ディラック方程式のグリーン関数である。
また、これらは「自由場の2点関数」と考えることもできる。
また、自由場の非同時刻交換関係ともつながっていて、いろいろ公式がある。
それは、どの教科書にも書いてあるが、ここでは省略する。
定理10.33
の を に置き換えたものを と書くと、
ただし、 は定数で、 は、
フェルミオンの場合も同様な議論ができる。
(ただし、以下、しばらくスカラー場のみの話とする。)
補題10.34
(補題10.34の証明)
これを空間座標で微分しても にかかるだけだが、時間座標で微分すると だけでなく、
積分の下限、上限にひっかかる。
すなわち、
よって、 を計算すると、
以外に、 の同時刻交換関係がでる。
ただし、この項は なのであった(原理10.18)。
しかし、もう一度時間微分をすると、 と の同時刻交換関係が出て、
これはデルタ関数になる。
これをまじめに計算すると証明できる。□
(補題10.35の証明)
相互作用がない場合、補題10.34の式は
。
証明すべき式には演算子はなく、普通に微分してよいので、 を作用させると、
定理10.31より期待する関係式を満たしていることがわかる。
また、 のとき、 は であるべきなので、係数が とわかる。□
補題10.36
、 を「演算子」(場の演算子でなくても非可換なもの)とするとき、
特に、 が と可換なら、
(補題10.36の証明)
あとで。
(定理10.33の証明)
相互作用がある場合、運動方程式は
となる。
よって、補題10.34より、
ただし、 は の を で置き換えたものである。
( による"微分"が になるから。)
この解は
と書ける。
これは、直接確かめられる。
ところで、補題10.36より、
(最後の式変形は、 を適当な多項式にとって試してみると確信できる。)□
定理10.37
とし、また、
などの略記法を使うと、
ただし、 は演算子ではなく、ただの関数とする。
補題10.38
、 を適当な汎関数とすると、
ただし、 は演算子ではなく、ただの関数とする。
(補題10.38の証明)
こうすると右辺の と は入れ替えられる。
入れ替えてから を とすれば証明される。□
(定理10.37の証明)
まず、 という素敵な公式は
と が非可換のときは使えない。
が、可換ならためらわずに使う。
また、
も余裕である。
さて、補題10.38を使うと、
ここで、 を の前に出し、 を作用させる。
]
ここで補題10.36を使うと、
あとはまとめるだけである。□
参考書:
現代的な視点からの場の量子論 ナイア
Field Theory, the Renormalization Group, and Critical Phenomena D.J. Amit
Quantum Field Theory C. Itzykson J. Zuber
(私の学生時代はItzykson・Zuberが定番だったように思う。
しかし、読みにくかった。今読んでもそう思う。
いや、人それぞれだと思うけど。
ただ、いろいろなことが書いてあるので、ひろい読みにはとてもよい。
いや、人それぞれだと思うけど。)