物理学ミニマム(場の理論)3

定義10.39 S行列
始状態と終状態を結びつけるユニタリな演算子をS行列(S行列演算子)という。
   S^+\hspace{3}S\hspace{3}=\hspace{3}1
   |\hspace{3}in\hspace{3}>\hspace{3}=\hspace{3}S\hspace{3}|\hspace{3}out\hspace{3}>
   <\hspace{3}out\hspace{3}|\hspace{3}=\hspace{3}<\hspace{3}in\hspace{3}|\hspace{3}S

注10:40 S行列要素
始状態が n 個の粒子(運動量が k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_n )で
終状態が N\hspace{3}-\hspace{3}n 個の粒子(運動量が k_{n+1},\hspace{3}k_{n+2},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_N )となる確率振幅は
   <\hspace{3}k_{n+1},\hspace{3}k_{n+2},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_N\hspace{3}|\hspace{3}S\hspace{3}|\hspace{3}k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_n\hspace{3}>
と書ける。
これを S(k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_n\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}k_{n+1},\hspace{3}k_{n+2},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_N) (S行列の要素)と略記する。
S行列の要素はN点関数をフーリエ変換したものである。

注10.41 頂点関数
定理10.37を見ると、N点関数は
   G(x_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)\hspace{3}=
   \hspace{3}\int d^4z_1\cdots d^4z_N\hspace{3} G_F(x_1,\hspace{3}z_1)\cdots  G_F(x_N,\hspace{3}z_N)\hspace{3}V(z_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}z_N)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
と書けることがわかる。
上の \cdots は、e xp[\frac{1}{2}\int J G_FJ] からの寄与を含む項だが、後述のようにあまり重要ではない。
ここで、
   V(z_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}z_N)\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\delta}{\delta\varphi(z_1)}\hspace{3}\cdots\hspace{3}\frac{\delta}{\delta\varphi(z_N)}\cal{F}[\varphi]|_{\varphi=0}
である。
この V を頂点関数などともよぶ。

定理10.42 S行列要素の公式
   S(k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_n\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}k_{n+1},\hspace{3}k_{n+2},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_N)
   \hspace{3}=\hspace{3}\prod^n_{j=1}\int_x u_{k_j}(x_j)\hspace{3}i(\partial_j^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2)\hspace{3}\prod^N_{r=n+1}\int_y u^*_{k_r}(x_r)\hspace{6}i(\partial_r^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2)\hspace{3}G(x_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)
ただし、
   u_k(x)\hspace{3}=\hspace{3}\frac{e^{-ikx}}{\sqrt{2\omega_kV}}\hspace{27}(\hspace{3}k_0\hspace{3}=\hspace{3}\sqrt{\bf{k}^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2}\hspace{3})
   \partial_j^2\hspace{3}=\hspace{3}\eta_{\mu\nu}\hspace{3}\frac{\partial }{\partial x_j^\mu}\hspace{3}\frac{\partial }{\partial x_j^\nu}

(証明)
    G_F(x,\hspace{3}y)\hspace{3}=\hspace{3}\sum_k[\theta(x^0\hspace{3}-\hspace{3}y^0)u_k(x)u^*_k(y)\hspace{3}+\hspace{3}\theta(y^0\hspace{3}-\hspace{3}x^0)u_k(y)u^*_k(x)]
と書ける。
これを注10.41に代入し、フーリエ変換をする。
ただし、 x_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_n の時間成分は -\inftyx_{n+1},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N の時間成分は \infty とする。
すると、
   S(k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_n\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}k_{n+1},\hspace{3}k_{n+2},\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}k_N)
   \hspace{3}=\hspace{3}\int d^4z_1\cdots d^4z_N\hspace{3}u_{k_1}(z_1)\cdots\hspace{3}u^*_{n+1}(z_{n+1})\cdots u^*_{k_N}(z_N)\hspace{3}V(z_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}z_N)
しかるに、 G_Fi(\partial_j^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2) の逆だから、
   V(x_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)\hspace{3}=\hspace{3}\prod^N_{j=1}\hspace{3}i(\partial_j^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2)\hspace{3}G(x_1,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)
とも書ける。□

注10.43
相当ややこしいことになってきたように見えるが、これから結合定数を小さいとして、
S行列要素の摂動展開(結合定数による展開)をする。
すると、低次の項は(少なくとも見た目は)大変やさしい。

定理10.44 ウィックの定理
\varphi(x_j)\varphi(j) などと書くと、
   e xp[\frac{1}{2}\int  G_F\delta\delta]\hspace{3}\varphi(1)\varphi(2)\hspace{3}\cdots\hspace{3}\varphi(N)\hspace{3}=\hspace{3}\varphi(1)\varphi(2)\hspace{3}\cdots\hspace{3}\varphi(N)\hspace{3}
    \hspace{3}+\hspace{3}\sum\hspace{3} ウィック縮約が1つ
    \hspace{3}+\hspace{3}\sum\hspace{3} ウィック縮約が2つ
    \hspace{3}+\hspace{3}\cdots
ウィック縮約とは、2つの \varphi G_F に変えたもの。

(証明)
例10.45を見よ。

例10.45
   (\frac{1}{2}\int  G_F\delta\delta)\hspace{3}\varphi(1)\varphi(2)\hspace{3}=\hspace{3} G_F(1, 2)
   (\frac{1}{2}\int  G_F\delta\delta)(\frac{1}{2}\int  G_F\delta\delta)\hspace{3}\varphi(1)\varphi(2)\varphi(3)\varphi(4)\hspace{3}=
     \hspace{3} G_F(1, 2) G_F(3,\hspace{3}4)\hspace{3}+\hspace{3} G_F(1, 3) G_F(2,\hspace{3}4)\hspace{3}+\hspace{3} G_F(1, 4) G_F(2,\hspace{3}3)

定義10.46 ファインマンダイアグラム
Z[J] の中にN点関数に関する(したがって、確率振幅の)すべての情報が入っている。
今のところ「そのすべてを計算する」というより、「その中から必要なものを取り出す」と
いう方針が取られる。
その際、「取り出したい現象」をファイマンダイアグラムとよばれる図で表す(例10.46参照)。

例10.47 \phi^4 理論

\cal{L}_{int}\hspace{3}=\hspace{3}-\lambda\hspace{3}\phi^4 とすると、
   e xp[\frac{1}{2}\int G\delta\delta]\hspace{3}e xp[-i\lambda\hspace{3}\int \varphi^4]\hspace{3}=\hspace{3}
     -i\lambda\int \varphi^4(x)\hspace{3}-\hspace{3}i6\lambda\int \varphi(x)^2 G_F(x,\hspace{3}x)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots

(一応言っておくと、\phiスカラー場の演算子である。
 一方、\varphiスカラー場の理論のN点関数・S行列の公式に出てくる関数である。
 当然、非常に近いものだが、違うものである。)

右辺最初の項は
   S(k_1,\hspace{3}k_2\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}p_1,\hspace{3}p_2)\hspace{3}=
    \hspace{3}\int d^4z_1d^4z_2d^4z_3d^4z_4\hspace{6}u_{k_1}(z_1)u_{k_2}(z_2)u^*_{p_1}(z_3)u^*_{p_2}(z_4)
      \frac{\delta}{\delta\varphi(z_1)}\frac{\delta}{\delta\varphi(z_2)}\frac{\delta}{\delta\varphi(z_3)}\frac{\delta}{\delta\varphi(z_4)}\cal{F}[\varphi]|_{\varphi=0}
に寄与する。
今更だが、 \frac{\delta}{\delta\varphi(x)}\hspace{3}\varphi(y)\hspace{3}=\hspace{3}\delta(x\hspace{3}-\hspace{3}y) であり、その寄与は
   (-i\lambda)4!\frac{(2\pi)^4\delta(k_1\hspace{3}+\hspace{3}k_2\hspace{3}-\hspace{3}p_1\hspace{3}-\hspace{3}p_2)}{\sqrt{(2\omega_{k_1}V)(2\omega_{k_2}V)(2\omega_{p_1}V)(2\omega_{p_2}V)}}
である。
これを図で示したのが、図の左上の図である。
これは、「運動量が k_1k_2 の2粒子が衝突し、
運動量が p_1p_2 の2粒子になる」という物理過程をうまく表している。

-\hspace{3}i6\lambda\int \varphi(x)^2 G_F(x,\hspace{3}x) の項は同様に考えると S(k_1\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}k_1) に寄与することがわかる。
ここで
    G_F(x,\hspace{3}x)\hspace{3}=\hspace{3}\int\frac{d^4p}{(2\pi)^4}\hspace{3}\frac{i}{p^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}+\hspace{3}i\epsilon}
であるが、これは、運動量 p の粒子が行き場なく時空の中をぐるぐる回っている感じで、
それを図示したのが右上の図である。
p は各成分が -\infty から \infty の値を取り、その和を取っていると言える。)

しかし、この積分は発散してしまう。
ということは、\lambda が小さいとして展開したのに、その係数が無限大になってしまう
ということであり、普通の感覚で言えば、この摂動論は破たんしている。
しかし、それを救う方法があり、「繰り込み理論」とよばれる。これについては後述する。

同様に左下の図は \lambda についての2次の項で S(k_1,\hspace{3}k_2,\hspace{3}k_3\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}p_1,\hspace{3}p_2,\hspace{3}p_3) に寄与する。
右下の図は S(k_1,\hspace{3}k_2\hspace{3}\rightarrow \hspace{3}p_1,\hspace{3}p_2) に寄与する2次の項で、
やはりループがあり、発散し、繰り込みが必要となる。

ファインマンダイアグラムが何のためにあるかというと、S行列を計算する際に、
これを利用することで「見落としがなくなる」とも考えられるが、
実際には定理10.37の計算をルールに従って行うだけであり、プロの人が
見落とすというのも考えにくい。
「直観的に理解しやすい」ということで好まれるのではないだろうか。

逆に、「ファインマンダイアグラムを基本としよう」という流儀を聞いたこともある。
(トゥフーフト・ヴェルトマンとか?)

注10.48 繰り込み理論
もう少し詳しく後でやるつもりだが、簡単に言うと、次のよう。

ラグランジアンの中で質量の項は m^2\phi^2 という形をしている。
一方、例10.46の右上の図に対応するものは (\infty)\hspace{3}\times\hspace{3}\varphi^2 である。
\infty積分の発散。
 また、\varphi は場の演算子ではないが、場を表してはいる。)
つまり、この項は「量子効果で現れた新たな質量」ととれる。
これにより、「もともとあった質量が量子効果で無限になってしまう」と見えるが、
逆に、「もともとあった質量(裸の質量という)など見えはせず、それに無限の
量子効果が加わったものが現実に見えている有限の質量」と考えるのである。
これは「無限の裸の質量+無限の量子効果=現実の質量」ということであり、
実質、「無限大−無限大=有限の量」という、かなり危ういことをしていることになる。
しかし、この手順で計算した結果が、恐るべき精度で現実とあってしまうらしい。
(ちなみに、例10.46の右下の図は「\lambda への量子補正」である。)

注10.49
S行列は「このような過程が実現する確率」を表す。
しかし、現実に実験を行う場合は、たとえば、
「粒子Aを一定の密度で置き、そこに粒子Bをこれまた一定の密度で入射させ、
 その結果を見る」
「粒子Aと粒子Bをそれぞれ一定の密度で正面衝突させ、その結果を見る」
などということをする。
すると

 単位面積に単位秒あたり N 個の粒子を入射させたときに、
 特定の現象が \Delta N 回起こる確率 \Delta\hspace{3}N/\hspace{3}N

が重要になる。
これを散乱断面積(次元がちゃんと面積になる)という。
散乱断面積はS行列要素で表すことができるが、ここでは省略する。

注10.50 ディラック場、ベクトル場(電磁場)
ここまで、かなり長くスカラー場の話のみをしてきた。
ディラック場やベクトル場もほぼ同様にできる。
ディラック場の場合、ガンマ行列と自由場の解の公式等の導出・利用に労力がいるが、
(理論が完成している今の学習者には)労力だけの問題だと思う。
質量ゼロのベクトル場は、物理的には電磁場(とその仲間)である。
古典論で「横波しか存在しない」ということが示されたが、量子論でも当然そうなっていて、
その扱いがややこしい。
しかし、上記のスカラー理論程度までのことは、ほぼ同様に展開される。
その結果、要するに、ファインマンダイアグラムを計算することになる。
たとえば、電子と電磁波の散乱(コンプトン散乱)なら、次のようなダイアグラムを計算する。

(直線が電子(ディラック場)で波線が電磁波(光子、質量ゼロのベクトル場))

注10.51
注10.41で、e xp[\frac{1}{2}\int J G_FJ] からの寄与を含む項はあまり重要でない、と書いた。
ファイマンダイアグラムを使いながら(使わなくてもよいが)考えると、「ここから出てくる項と
その後の項から出てくる項の積」が全体に含まれることがわかる。
しかし、「積」ということは、「独立した物理過程が並行して起こっている」ということである。
つまり、4粒子の反応のように見えて、非自明な反応は3粒子の反応のみで、あと1つの粒子は
素通りしている、などという場合である。
実際の実験ではこれらを考慮する必要がある(だろう)が、非自明な物理過程の研究としては、
e xp[\frac{1}{2}\int J G_FJ] からの寄与を含む項はあまり重要でない、となる。

定義10.52 連結ダイアグラム、連結N点関数
2つの積に分解できないダイアグラムを連結という。
また、それに対応するN点関数を連結N点関数という。
たとえば、
   G(x_1,\hspace{3}x_2,\hspace{3}x_3,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)\hspace{3}=\hspace{3}G(x_1,\hspace{3}x_2)\hspace{3}G(x_3,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}x_N)
は、非連結なダイアグラムに対応する非連結N点関数である。
(注10.51で書いた「あまり重要でない項」の1つである。)

定理10.53
   Z[J]\hspace{3}=\hspace{3}e xp(W[J])
とすると、W[J] は連結N点関数の生成汎関数である。
すなわち、連結N点関数を G^c_N とおくと、
   W[J]\hspace{3}=\hspace{3}\int d^4xJ(x)G^c_1(x)\hspace{3}+\hspace{3}\frac{1}{2!}\int d^4x_1d^4x_2J(x_1)J(x_2)G^c_2(x_1,\hspace{3}x_2)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
である。

(証明)
これまでのスカラー場の例では G^c_4 はあるが G^c_3 は出てこない。
しかし、一般論としていれておく。
(「ない」場合はあとで 0 にすればよい。)
G^c_1 も同様である。

また、ここでは、たとえば G_2\int d^4x_1d^4x_2\hspace{3}J(x_1)J(x_2)G_2(x_1,\hspace{3}x_2) を表すとする。

\sum_k\hspace{3}n_k\hspace{3}k\hspace{3}=\hspace{3}N のもとで
   G_N\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n_k}\hspace{3}N!\hspace{3}[\frac{(G^c_1)^{n_1}}{n_1!}\hspace{3}\frac{(G^c_2/2!)^{n_2}}{n_2!}\hspace{3}\cdots\hspace{3}]
(注10.54を参照)

Z[J] にこれを代入すると、結局、あらゆる組み合わせで和を取ることになり、
    Z[J]\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n_k}\hspace{3}\frac{(G^c_1)^{n_1}}{n_1!}\hspace{3}\frac{(G^c_2/2!)^{n_2}}{n_2!}\hspace{3}\cdots\hspace{3}=\hspace{3}e xp(G^c_1)e xp(\frac{G^c_2}{2!})\hspace{3}\cdots

注10.54
G(x_1,\hspace{3}x_2,\hspace{3}x_3,\hspace{3}x_4)G(1,\hspace{3}2,\hspace{3}3,\hspace{3}4) などと書く。
また、N点関数を表す添え字「N」は明らかなときは省略する。
すると、たとえば、
   G(1,\hspace{3}2,\hspace{3}3,\hspace{3}4)\hspace{3}=\hspace{3}G^c(1)G^c(2)G^c(3)G^c(4)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)G^c(2)G^c(3,\hspace{3}4)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)G^c(3)G^c(2,\hspace{3}4)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)G^c(4)G^c(2,\hspace{3}3)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(2)G^c(3)G^c(1,\hspace{3}4)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(2)G^c(4)G^c(1,\hspace{3}3)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(3)G^c(4)G^c(1,\hspace{3}2)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c_2(1,\hspace{3}2)G^c_2(3,\hspace{3}4)\hspace{6}+\hspace{3}G^c_2(1,\hspace{3}3)G^c_2(2,\hspace{3}4)\hspace{3}+\hspace{3}G^c_2(1,\hspace{3}4)G^c_2(2,\hspace{3}3)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)\hspace{3}G^c(2,\hspace{3}3,\hspace{3}4)\hspace{6}+\hspace{3}G^c(2)\hspace{3}G^c(1,\hspace{3}3,\hspace{3}4)\hspace{3}
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(3)\hspace{3}G^c(1,\hspace{3}2,\hspace{3}4)\hspace{6}+\hspace{3}G^c(4)\hspace{3}G^c(1,\hspace{3}2,\hspace{3}3)\hspace{3}
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(1,\hspace{3}2,\hspace{3}3,\hspace{3}4)\hspace{3}
定理10.53の証明中のように、各変数について J(x) をかけて積分していると思えば、たとえば、
   G^c(1)G^c(2)G^c(3,\hspace{3}4)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)G^c(3)G^c(2,\hspace{3}4)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(1)G^c(4)G^c(2,\hspace{3}3)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(2)G^c(3)G^c(1,\hspace{3}4)
    \hspace{3}+\hspace{3}G^c(2)G^c(4)G^c(1,\hspace{3}3)\hspace{3}+\hspace{3}G^c(3)G^c(4)G^c(1,\hspace{3}2)
   \hspace{3}=\hspace{3}6\hspace{3}(G^c_1)^2G^c_2
この 6 のようなものをシステマティックに出せばよい。
それが
   G_N\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{n_k}\hspace{3}N!\hspace{3}[\frac{(G^c_1)^{n_1}}{n_1!}\hspace{3}\frac{(G^c_2/2!)^{n_2}}{n_2!}\hspace{3}\cdots\hspace{3}]
である。
ここまでくれば、理系なら自分のやり方でできるはずであり、かつ、
人の導出法なんか(よほどうまいのでなければ)聞きたくないものである。

定義10.55 1粒子既約なN点関数
対応するファイマンダイアグラムの中の1本を切っても非連結にならないN点関数を
1粒子既約という。

定義10.56 有効作用
   i\Gamma[\Phi]\hspace{3}=\hspace{3}\int d^4x\hspace{3}W[J]\hspace{3}-\hspace{3}J(x)\Phi(x)
で定義される \Gamma を(量子的な)有効作用という。

注10.57
   \frac{\delta\Gamma}{\delta\Phi(x)}\hspace{3}=\hspace{3}iJ(x)
   \frac{\delta W}{\delta J(x)}\hspace{3}=\hspace{3}\Phi(x)
となる。
驚きのルジャンドル変換である。

定理10.58
\Gamma[\Phi] は1粒子既約なN点関数の生成汎関数である。

(証明っぽい何か)
真のN点関数は、ファイマンダイアグラムに対応するN点関数(摂動展開したもの)を
無限に足し合わせるとできる。
特に、連結な真の2点関数を白丸、1粒子既約な成分のみを取り出したものを灰色丸で表すと、
次のような関係になる。

連結した真の2点関数をシンボリックに G^c_2(i, j) と書き(i,\hspace{3}j は座標や運動量など
適当なものを表すとする)、1粒子既約な2点関数を \tilde{V}(k,\hspace{3}m) と書くと、
ダイアグラムは
   G^c_2(i,\hspace{3}j)\hspace{3}=\hspace{3}G^c_2(i,\hspace{3}k)\hspace{3}\tilde{V}(k,\hspace{3}m)\hspace{3}G^c_2(m,\hspace{3}j)
を表している。
つまり、 \tilde{V}(i,\hspace{3}j)G^c_2(i, j) の逆ということになる。
   \tilde{V}(i,\hspace{3}j)\hspace{3}=\hspace{3}(G^c_2)^{-1}(i,\hspace{3}j)
3点関数も同様に、

これを式で書くと、
   G^c_3(i,\hspace{3}j,\hspace{3}k)\hspace{3}=\hspace{3}G^c_2(i,\hspace{3}i')G^c_2(j,\hspace{3}j')G^c_2(k,\hspace{3}k')\tilde{V}(i',\hspace{3}j',\hspace{3}k')
である。
4点関数以上になると、1つのダイアグラムで表せなくなるが、同様に連結N点関数と
1粒子既約成分の関係を考えることができる。

さて、注10.57の上の式を -i 倍して J(y)微分する。
   \delta(x\hspace{3}-y)\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\delta}{\delta J(y)}\hspace{3}(-i\frac{\delta\Gamma}{\delta\Phi(x)})
    \hspace{3}=\hspace{3}-i\int d^4z\hspace{3}\frac{\delta \Phi(z)}{\delta J(y)}\hspace{3}\frac{\delta^2\Gamma}{\delta\Phi(x)\delta\Phi(z)}
    \hspace{3}=\hspace{3}-i\int d^4z\hspace{3}\frac{\delta^2\Gamma}{\delta\Phi(x)\delta\Phi(z)}\hspace{3}\frac{\delta^2W}{\delta J(z)\delta J(y)}
ここで、
   \Phi\hspace{3}=\hspace{3}0,\hspace{12}J\hspace{3}=\hspace{3}0
とおくと、
   \int d^4z\hspace{3}G^c_2(x,\hspace{3}z)\hspace{3}(-i\frac{\delta^2\Gamma}{\delta\Phi(z)\delta\Phi(x)})\hspace{3}=\hspace{3}\delta(x\hspace{3}-\hspace{3}y)
となる。よって、先のダイアグラムの議論から
   \tilde{V}(x,\hspace{3}y)\hspace{3}=\hspace{3}-i\frac{\delta^2\Gamma}{\delta\Phi(x)\delta\Phi(y)}
が言える。
J\hspace{3}=\hspace{3}0 は自由にできるとして、そのとき \Phi\hspace{3}=\hspace{3}0 かという問題がある。
 実際、そうでない場合が重要になることもあるが、「普通の場合」はそうおけると思う。
 また、0 にならない場合(注10.59)も、その分ずらせば同様の議論ができる。)

J0 に置く前の式をもう一度 J微分すると連結な2点関数、3点関数と
\frac{\delta^3\Gamma}{\delta\Phi(x)\delta\Phi(y)\delta\Phi(z)} に関する式になる。
それはダイアグラムで考えたものと一致し、
   \tilde{V}(x,\hspace{3}y,\hspace{3}z)\hspace{3}=\hspace{3}-i\frac{\delta^3\Gamma}{\delta\Phi(x)\delta\Phi(y)\delta\Phi(z)}
が言える。
さらに4点関数も同様に言える。
物理学者は例が3つもあれば証明されたと思うらしい。□

注10.59 有効作用のループ展開
一般に、量子論は、「古典論+量子補正」と考えることが多い。
量子補正は、\hbar を小さいと考えた時の \hbar による展開で計算される。
これが場の理論の場合「ループの数による展開」と一致する。

これまで \hbar\hspace{3}=\hspace{3}1 としたが、この注と次の注のみ復活させると、
\hbar は作用の次元をキャンセルするように \frac{S}{\hbar} のように入る。
よって、ラグランジアン(\partial)^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2 の逆に相当するプロパゲーターは \hbar に、
ラグランジアンの相互作用項に相当する頂点関数は \hbar^{-1} に比例する。
したがって、\hbar の次数は、「プロパゲーターの数 - 頂点の数」になる。
外線の数を固定して計算する場合は、これを「内線の数 - 頂点の数」で考えてよい。
ところで、
  ループの数 = 内線の数 - 頂点の数 + 1
という関係が成り立つ。
したがって、「内線の数 - 頂点の数 = ループの数 - 1」となる。

注10.60 \phi^4 理論
ループ展開で考える場合、もっとも次数が低いのはループがない場合である。
これをツリー(と発音する人はおじいちゃんおばあちゃん?)という。
そこで、ツリーを考える。
\tilde{V}_2G^c_2 の逆であり、ループを考えなければ、これは  G_F の逆、
すなわち i\delta (x-y)(\partial_y^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2)
   -i\frac{1}{\hbar}\Gamma[\Phi]\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}\int\hspace{3}\tilde{V}_2(x,\hspace{3}y)\Phi(x)\Phi(y)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
だが、この項は結局
   \Gamma[\Phi]\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}\int\hspace{3}[(\partial\Phi(x))^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2(\Phi(x))^2]\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
また、\phi^4 からくる外線が4つの項は \int(-\lambda\Phi(x)^4) となる。
したがって、有効作用は
   \Gamma\hspace{3}=\hspace{3}\int(\frac{1}{2}[(\partial\Phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\Phi^2]\hspace{3}-\hspace{3}\lambda\Phi^4)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
となる。

以上の議論は、一般の場合にも成り立つ。
すなわち、有効作用をループ展開した場合、最低次は「もともとの作用」と一致する。
有効作用は、「もともとの作用」の量子補正と考えることができるのである。

注10.61 自発的対称性の破れ
\Gamma は量子効果を取り込んだ作用と考えることができるのだった。
作用はラグランジアン積分したものだが、ラグランジアンから「場の微分の項」を
取り除いた部分は、一般に、ポテンシャルエネルギーとよばれる。
したがって、\Gamma から「場の値 \Phi(x) に対する、量子的に補正された
ポテンシャルエネルギー」が得られるわけである。

注10.57より、「物理的状態」は J\hspace{3}=\hspace{3}0、すなわち
   \frac{\delta\Gamma}{\delta\Phi(x)}\hspace{3}=\hspace{3}0
のときに実現されていると考えられる。
特に微分項を除いた場合、すなわち、静的な場合を考えると、これは、
「ポテンシャルエネルギーが最小(極値)であるものが実現される」
(水は低い方に流れ、そこにとどまろうとする)
という、古き良き物理学の直観によくあうことになる。

「通常の理論」では、場の値が 0 のところでポテンシャルが最小になるように
作られているから、
   \frac{\delta\Gamma}{\delta\Phi(x)}\hspace{3}=\hspace{3}0

   \Phi(x)\hspace{3}\neq\hspace{3}0
な解を持つと、「何もしないのに場が値を持った」
(「0 でないところが底になった」)ということになる。

(このような図は各点 x で考えられるが、ここでは、ある点を決めて見ている。)
これを「(量子論的な)自発的対称性の破れ」などという。
(もちろん、自発的対称性の破れは、必ず起こるのではない。)



参考書:
現代的な視点からの場の量子論 ナイア
Field Theory, the Renormalization Group, and Critical Phenomena D.J. Amit
(学生時代、誰かが「Amitってアミンみたいだよね」と言った。
 全然似てないと思うのだが、今でもAmitを見ると「私待ぁ〜つ〜わ」と歌ってしまう。)
Quantum Field Theory C. Itzykson J. Zuber