物理学ミニマム(場の理論)4

定義10.62 繰り込み
積分の発散を質量や結合定数(パラメータ)などに吸収させ、有限の答を出す方法を
繰り込みという。

例10.63 \phi^4 理論
裸の場(もともとの場)、裸の質量、裸の結合定数を \chi,\hspace{9}\m_0,\hspace{9}\lambda_0 とする。
すると、ラグランジアン
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}[(\partial\chi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m_0^2\chi^2]\hspace{3}-\hspace{3}\lambda_0\chi^4
これが量子効果によって
   \lambda\hspace{3}=\hspace{3}Z_1^{-1}\hspace{3}Z^2_3\hspace{3}\lambda_0
   m^2\hspace{3}=\hspace{3}m_0^2\hspace{3}+\hspace{3}\delta m^2
   \phi\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{\sqrt{Z_3}}\hspace{3}\chi
のようになる(繰り込まれる、という)と考える。
すると、ラグランジアン
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}Z_3[(\partial\phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}(m^2\hspace{3}-\hspace{3}\delta m^2)\phi^2]\hspace{3}-\hspace{3}Z_1\lambda\phi^4
となる。
裸の場 \chi が量子効果で「服」をまとい \phi となると考えるのである。
その「服」が Z_3 で表される。
質量(の2乗)は、量子効果で \delta m^2 だけ増えると考える。
結合定数の「変化」は Z_1 で表さている。
これらのパラメータは \hbar で次のように展開されると考える。
   Z_1\hspace{3}=\hspace{3}1\hspace{3}+\hspace{3}\sum_{L=1}^\infty\hspace{3}\hbar^L\hspace{3}Z_1^{(L)}
   Z_3\hspace{3}=\hspace{3}1\hspace{3}+\hspace{3}\sum_{L=1}^\infty\hspace{3}\hbar^L\hspace{3}Z_3^{(L)}
   \delta m^2\hspace{3}=\hspace{3}\sum_{L=1}^\infty\hspace{3}\hbar^L\hspace{3}(\delta m)^{(L)}
\hbar の各オーダーで有効作用(など)が有限になるようにパラメータを決めていくのが
繰り込みである。

たとえば、例10.47の右上のダイアグラムから
   [12Z_1\lambda \frac{1}{Z_3}\int\frac{d^4p}{(2\pi)^4}\hspace{3}\frac{i}{p^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}+\delta m^2\hspace{3}+\hspace{3}i\epsilon}]\hspace{3}\int d^4x\frac{1}{2}\Phi(x)^2
の寄与がある。
\hbar の1次までで考えるなら、上の式内では
   Z_1\hspace{3}=\hspace{3}Z_2\hspace{3}=\hspace{3}1,\hspace{9}\delta m^2\hspace{3}=\hspace{3}0
と考えてよい。
ここで積分路を虚軸に持っていくと計算がしやすい。
それは
   k^0\hspace{3}=\hspace{3}ik^4
として、ミンコフスキー空間 (k^0,\hspace{3}k^i) ではなく、
ユークリッド空間 (k^1,\hspace{3}k^2,\hspace{3}k^3,\hspace{3}k^4)積分するということである。
すると、この寄与は
   [-12\lambda \int\frac{d^4p}{(2\pi)^4}\hspace{3}\frac{1}{p^2\hspace{3}+\hspace{3}m^2}]\hspace{3}\int d^4x\frac{1}{2}\Phi(x)^2
となる。
さらに、 p^2\hspace{3}=\hspace{3}s とおいて、d^4p\hspace{3}=\hspace{3}\pi^2s\hspace{3}ds を使い、s の上限を \Lambda とすると、
   -\frac{3\lambda}{4\pi^2}[\Lambda^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}log(1\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\Lambda^2}{m^2})]\hspace{3}\int d^4x\frac{1}{2}\Phi^2(x)
となる。
s (運動量の大きさ)の上限は「理論」にないものだが、ここで勝手にいれた。
本来(?)、これは \infty と考えられるものだが、このように止めておいて、最終的に理論に
残らないようパラメータを調整するのが繰り込みなのである。
ここまでで有効作用は
   \Gamma\hspace{3}=\hspace{3}\int\frac{1}{2}[(\partial\Phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\Phi^2]\hspace{3}+\hspace{3}\hbar Z_3^{(1)}\int\frac{1}{2}[(\partial\Phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\Phi^2]
   \hspace{3}+\hspace{3}\hbar \{(\delta m^2)^{(1)}\hspace{3}-\hspace{3}\frac{3\lambda}{4\pi^2}[\Lambda^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}log(1\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\Lambda^2}{m^2})]\hspace{3}\}\hspace{3}\int d^4x\frac{1}{2}\Phi^2(x)\hspace{3}+\hspace{3}\cdots
となる。
よって、\Phi の2次の項を有限にし、運動エネルギーの係数が通常通り 1 になるには、
   Z_3^{(1)}\hspace{3}=\hspace{3}0
   {(\delta m^2)^{(1)}=\hspace{3}\frac{3\lambda}{4\pi^2}[\Lambda^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}log(1\hspace{3}+\hspace{3}\frac{\Lambda^2}{m^2})]
とすればよいことがわかる。

他の発散についても同様である。
たとえば、例10.47の右下のダイアグラムからは \lambda の補正である Z_1 に関する条件が出る。
しかし、ただ「有限にする」というだけでは、「無限 - 無限」の不定性が残る。
そのため、この不定性を表すパラメータ(\mu などとおく)が必要になる。
(上の計算例では、「裸の質量 - 量子補正 = 実際の質量」となって単純だが、
 結合定数の繰り込みでは、別のパラメータに依存する不定性が残ってしまう。)
そうであっても、その結果「計算可能な理論」ができる。
質量など、理論のパラメータが有限個で、それらを実験によって定めることができれば、
それでよいわけである。

例10.64 繰り込み可能な理論
\phi^4 理論、量子電磁力学、ワインバーグ・サラム理論、QCDは繰り込み可能である。
重力理論は繰り込み不可能である。

注10.65 質量による次元と繰り込み可能性
自然単位系では、時間と空間の次元は同じであり、作用は無次元と考える。
そこで残りの次元を「質量の次元」(長さの次元の逆)で考えることが多い。
ラグランジアンの次元はいつも「質量の4乗」、微分は「質量と同じ」である。
さらに、たとえば、\phi^4 理論
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}[(\partial\phi)^2\hspace{3}-\hspace{3}m^2\phi^2]\hspace{3}-\hspace{3}\lambda\phi^4
の場合、場は「質量と同じ」、\lambda は無次元である。
また、ディラック場の次元は「質量の3/2乗」である。

一般に、発散する積分は、この次元を見ることで(特別な場合以外は)わかる。
有効作用は無次元なので、「スカラー場(\Phi(x))の2乗」の係数となる積分の次元は
2(質量の2乗)であり、つまり、その値は\Lambda^2 に比例することになる。
したがって、それはまさに質量の繰り込みで処理できると考えられる。
無次元の積分log\Lambda に比例するので、場の繰り込み\lambda繰り込みで処理できる。
ループの数が増えても基本的には同じ議論ができる。
結合定数の次元が正のときは同様である。

しかるに、たとえば、ディラック場が g\hspace{3}(\bar{\psi}\psi \bar{\psi}\psi) のような相互作用をする場合、
g の次元は負(-2)となる。
すると、たとえば、g^n に比例する積分は(2n - 有効作用の場の数 x (3/2)) の次元を持ち、
場の数が少なければ発散すると考えられる。
これらを「打ち消す」ためには、無限に多くのパラメータが必要になるだろう。
実際、この理論は繰り込み不可能である。

すなわち、結合定数が負の次元を持つ理論は、たぶん繰り込み不可能なのである。
たとえば、重力の理論(重力場を重力の粒子(重力子)で考える理論)は
結合定数が負の次元を持つと考えられ、繰り込み不可能である。

ただし、これは大雑把な議論である。
すなわち、「\Lambda^n に比例する」と言っても、その係数が 0 であればよい。
これは「無限大の積分」同士がキャンセルしあう(符号が逆になるなどで)ということである。
たとえば、超対称性とよばれる対称性を持つ理論は、全部ではないが、多くの無限大が
キャンセルされることが知られている。

注10.66
重力の理論は繰り込み不可能であるから、「正しくない理論」かというと、それはわからない。

ところで、 g\hspace{3}(\bar{\psi}\gamma_\mu\psi \bar{\psi}\gamma^\mu\psi)フェルミ相互作用とよばれる繰り込み不可能な
相互作用であるが、ループ計算をしないとベータ崩壊をうまく説明する美しい理論となる。
したがって、フェルミ相互作用は「低いエネルギーでのみ成立する近似理論」と考えられる。
(「近似でない正しい理論」はワインバーグ・サラム理論と考えられている。)
それは、「相対論が低速の近似でニュートン理論になる」というのに似ている。
アインシュタインの重力理論もそのようなものだと考える人は多い。

定理10.67 繰り込み群方程式
繰り込まれたN点関数(など)は繰り込みのパラメータに関する微分方程式を満たす。

(証明)
繰り込みのパラメータを \mu (例10.63)とすると、繰り込み前のN点関数は当然 \mu に依らない。
これを繰り込まれたN点関数の式に書き直せばよい。

例10.68 \phi^4 理論
繰り込み前のものに添え字 0 をつけると、
   G_0(p_1,\hspace{3}p_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}p_n\hspace{3};\hspace{3}\lambda_0)\hspace{3}=\hspace{3}Z_3^{n/2}G(p_1,\hspace{3}p_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}p_n\hspace{3};\hspace{3}\lambda(\mu))
しかるに
   \mu\frac{\partial }{\partial \mu}G_0(p_1,\hspace{3}p_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}p_n\hspace{3};\hspace{3}\lambda_0)\hspace{3}=\hspace{3}0
これを書き直すと、
   (\mu\frac{\partial }{\partial \mu}\hspace{3}+\hspace{3}\beta\frac{\partial }{\partial \lambda}\hspace{3}+\hspace{3}n\gamma)\hspace{3}G(p_1,\hspace{3}p_2,\hspace{3}\cdots\hspace{3},\hspace{3}p_n\hspace{3};\hspace{3}\lambda(\mu))\hspace{3}=\hspace{3}0
ただし、
   \beta\hspace{3}=\hspace{3}\mu\frac{\partial }{\partial \mu}\hspace{3}\lambda(\mu)
   \gamma\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}\mu\frac{\partial }{\partial \mu}logZ_3

記法10.69
微小変換の生成子を t^a などと書く。
それらはリー環をなし、その交換関係は
   [t^a,\hspace{3}t^b]\hspace{3}=\hspace{3}if^{abc}\hspace{3}t^c
と書く。
t^a はエルミートで f^{abc} は実数とする。
有限な変換は
   g\hspace{3}=\hspace{3}e^{i\theta^at^a}
と書く。
また、一般に、t^a は行列で表し、
   tr(t^at^b)\hspace{3}=\hspace{3}\frac{1}{2}\delta_{ab}
のように規格化されているとする。
場はこの行列で次のように変換される。
   \delta \psi\hspace{3}=\hspace{3}i\theta^at^a\hspace{3}\psi   (微小変換)
   \psi'\hspace{3}=\hspace{3}g\hspace{3}\psi    (有限な変換)

定義10.70
変換のパラメータ(\theta)が時空に依らず定数の場合は、これを大域変換などという。
時空に依るときは、ゲージ変換(局所変換)などという。
理論が、ゲージ変換で不変な場合、それを「ゲージ対称性がある」などという。

注10.71
「大域対称性に不変量が伴う」ということは注10.14で見た。
たとえば、ラグランジアン
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\partial_\mu\phi_\alpha^*\partial^\mu\phi_\alpha\hspace{3}-\hspace{3}m^2\hspace{3}\phi_\alpha^*\phi_\alpha\hspace{6}
なら大域対称性がある。
ここで、\alphat^a で変換される足、すなわち、
   \delta \phi_{\alpha}\hspace{3}=\hspace{3}i\hspace{3}\theta^a\hspace{3}t^a_{\alpha\beta}\phi_{\beta}
そのネーターカレントは
   J^a_\mu\hspace{3}=\hspace{3}i\hspace{3}\partial_\mu \phi_\alpha^* t^a_{\alpha\beta}\phi_{\beta}
となる。
また、
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}\bar{\psi}_\alpha(i\gamma\cdot \partial\hspace{3}-\hspace{3}m)\psi_\alpha
の場合、ネーターカレントは
   J^a_\mu\hspace{3}=\hspace{3}\bar{\psi}_\alpha\gamma_\mu t^a_{\alpha\beta}\psi_\beta
と書ける。
(係数はその都度適当に選ばれる。)

定理10.72
ネーターカレントによる保存量は、同時刻交換関係により変換の生成子になる。
すなわち、たとえば、ボソンの場合
   Q^a\hspace{3}=\hspace{3}\int d^3x\hspace{3}J^a_0
に対し、
   \delta \phi\hspace{3}=\hspace{3}i[\theta^a\hspace{3}Q^a,\hspace{3}\phi]   (同時刻)
となる。
これを有限な変換で書くと
   \phi'(t,\hspace{3}\bf{x})\hspace{3}=\hspace{3}e^{i\theta^aQ^a}\phi(t,\hspace{3}\bf{x})e^{-i\theta^aQ^a}\hspace{3}=\hspace{3}e^{i\theta^at^a}\phi(t,\hspace{3}\bf{x})
となる。

(証明)
普通のラグランジアンで地道に計算するとそうなる。
有限変換の部分は補題10.36あたりより。

注10.73 時空の推進演算子
時空対称性でも同様の扱いができる。
特に、ハミルトニアン H は時間推進、運動量は場所移動(併進)の演算子である。
   H\hspac{3}=\hspac{3}\int d^3x T^{00}p^k\hspac{3}=\hspac{3}\int d^3x T^{0k}
   \delta \phi\hspace{3}=\hspace{3}i[H,\hspace{3}\phi]\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\partial }{\partial t}\phi
   \delta \phi\hspace{3}=\hspace{3}i[p_k,\hspace{3}\phi]\hspace{3}=\hspace{3}\frac{\partial}{\partial x^k}\phi
これを有限な変換にすると、
   \phi(t,\hspace{3}\bf{x})\hspace{3}=\hspace{3}e^{-i\bf{px}}e^{iHt}\phi(0,\hspace{3}0)e^{i\bf{px}}e^{-iHt}
とも書ける。

定義10.74 自発的対称性の破れ
ラグランジアンに対称性があり、真空がその変換で不変でないなら、
「その対称性は自発的に破れている」という。
真空が不変でないとは
   e^{i\theta^aQ^a}\hspace{3}|0>\hspace{3}\neq\hspace{3}|0>
ということである。
あるいは微小変換で書くと
   \theta^aQ^a\hspace{3}|0>\hspace{3}\neq\hspace{3}0
となる。

補題10.75
真空期待値がゼロでない場があるなら、自発的対称性が破れている。

(証明)
対称性が破れていない場合、定理10.72を真空ではさむと、
   <0|\hspace{3}\phi_\alpha\hspace{3}|0>\hspace{3}=\hspace{3}(e^{i\theta^at^a})_{\alpha\beta}\hspace{3}<0|\hspace{3}\phi_\beta\hspace{3}|0>
(e^{i\theta^at^a})_{\alpha\beta} は非自明な行列であるはずだから、この場合、
   <0|\hspace{3}\phi_\alpha\hspace{3}|0>\hspace{3}=\hspace{3}0
が言える。
この対偶が補題。□

定理10.76 南部・ゴールドストンの定理
大域対称性が自発的に破れる場合、質量ゼロの粒子が現れる。
これを南部・ゴールドストン粒子という。

(証明)
大域対称性が破れると、ある場が期待値を持つと考えられる。
その場を B と書き、破れた変換の生成子を Q とすると、
次のような式があると考えられる。
   [Q,\hspace{3}A(0,\hspace{3}\bf{0})]\hspace{3}=\hspace{3}B(0,\hspace{3}\bf{0})
ところで、
   Q\hspace{3}=\hspace{3}\int d^3x\hspace{3}J^0(t,\hspace{3}\bf{x})\hspace{3}=\hspace{3}\int d^3x\hspace{3}e^{-i\bf{px}}e^{iHt}\hspace{3}J^0(0,\hspace{3}0)\hspace{3}e^{-iHt}e^{i\bf{px}}\hspace{3}
である。
(カレントの時間成分は時間に依存するが、積分した Q は時間に依らないのだった。)
これを上の式に代入し、真空期待値を取り、積分を実行すると、
   [tex:(2\pi)^3\sum_n\delta(\bf{k})\[\hspace{3}<0|J^0(0,\hspace{3}0)|n>e^{-iE_nt}]
   [tex:\hspace{3}-\hspace{3}<0|A(0,\hspace{3}0)|n>e^{iE_nt}\hspace{3}\]\hspace{3}=\hspace{3}<0|B(0,\hspace{3}0)|0>]
右辺はゼロでなく、左辺を時間微分したものはゼロである。
と考えると、 E_n\hspace{3}=\hspace{3}0 でゼロにならない項が必ずあると思える。
さらに、デルタ関数のおかげで、運動量もゼロである。
つまり、「運動量もエネルギーもゼロの状態がある」ということである。□

注10.77 「古典的」な導出
南部・ゴールドストンの定理の導出はもっと直観的にも行われる。
質量項までいれたポテンシャルを V とする。
これが対称性を持つということは、
   \frac{\partial V}{\partial \phi_\alpha}\hspace{3}t^a_{\alpha\beta}\hspace{3}\phi_\beta\hspace{3}=\hspace{3}0
ということである。
これをもう一度場で微分して、場の真空期待値 v_\alpha のところで評価すると
   (\frac{\partial^2 V}{\partial \phi_\alpha\partial \phi_\beta})_{\phi=v}\hspace{3}t^a_{\alpha\beta}\hspace{3}v_\beta\hspace{3}=\hspace{3}0
となる。
場を
   \phi_\alpha\hspace{3}=\hspace{3}\tilde{\phi}_\alpha\hspace{3}+\hspace{3}v_\alpha
と書き直すと、\tilde{\phi} の質量を表す2次の項の係数は
   (\frac{\partial^2 V}{\partial \phi_\alpha\partial \phi_\beta})_{\phi=v}
となるが、これは先の議論よりゼロの固有値を持つ。
(さらに具体的にやってみると確信できる。)

注10.78 パイオン
南部先生・ヨナラシニオ先生はパイオンが南部・ゴールドストン粒子
(当時、そういう名前はなかったと思うが)ではないかと考えた。
パイオンには質量があるが、本質的には質量ゼロの粒子で、それにおまけ
(よくゴミという)がついているのではないかと。
その後、パイオンの問題としてより、質量ゼロの粒子を出すメカニズムが重要視され、
いろいろなところで応用される(応用が考えられる)ようになった。

パイオンの理論としては「良い結果を出す近似」として生き残っているようである
(実はよく知らない)が、現在の「正しい理論」はクォーク理論と考えられている。

注10.79 フォノン
音の粒子(音子、フォノン)は、併進対称性の破れに伴う南部・ゴールドストン粒子と
考えることができる。
これをよく考えると、南部・ゴールドストン粒子は魔法のようなものではなく、
ごく自然なものだと思えると思う。(ただし、以下は私見かもしれない。)

そもそもラグランジアンに対称性があり、真空にもその対称性があるなら、
その対称性を実感することは難しいと思う。
(「どう変換しても何も変わらない」ということだから。)
しかし、「真空がその対称性を破る」なら、それは見えるだろう。

この世の中では、実験装置を少しずらして実験しても結果は変わらないと思われる。
これを併進対称性という。
しかし、現実の世の中では、少しずれればわかる。
たとえば物質があればそれが目印になり、ずらせばわかるのだ。
素粒子論で言う真空とは、本当に真空のことだが、より広く解釈すれば、
それは「エネルギーが最低の状態」ということであり、たとえば、
冷えた(ほとんど動いていない)物質がおいてあれば、それを「真空」とも言えるだろう。
その「真空」(冷えた物質)をそっと横にずらすことができるが、本当にそっとだけ、
ほんの少しだけずらすなら、ほとんどエネルギーがいらないだろう。
つまり、エネルギーゼロの何か(励起という)を引き起こすことができるわけだ。
物質はもともとふらふら動く(振動する)ものだが、ほとんど全体をそっと横に
動かすのも「振動」の一種と考えられる。
まとめると、我々は「エネルギーゼロの振動を起こせる」ということになる。
この振動を量子力学で考えたものをフォノンという。
つまり、「フォノンという質量ゼロの粒子がある」ということである。

定義10.80 ゲージ場
質量ゼロのベクトル場で
   A_\mu\hspace{3}=\hspace{3}-it^aA^a_\mu
のように書けるものをゲージ場という。
ただし、ゲージ場はゲージ変換に対して
   A'_\mu\hspace{3}=\hspace{3}g\hspace{3}A_\mu\hspace{3}g^{-1}\hspace{3}-\hspace{3}(\partial_\mu g)g^{-1}
のように変換されるとする。
ゲージ場に対し
   D_\mu\hspace{3}\psi\hspace{3}=\hspace{3}(\partial_\mu\hspace{3}+\hspace{3}A_\mu)\hspace{3}\psi
を共変微分という。
また、「場の強さ」を
   F_{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}[D_\mu,\hspace{3}D_\nu]\hspace{3}=\hspace{3}-it^aF^a_{\mu\nu}
と定義する。
これは具体的には
   F^a_{\mu\nu}\hspace{3}=\hspace{3}\partial_\mu A^a_\nu\hspace{3}-\hspace{3}\partial_\nu A^a_\mu\hspace{3}+\hspace{3}f^{abc}A^b_\mu A^c_\nu
となる。

補題10.81
ゲージ変換に対し、
   (D_\mu \psi)'\hspace{3}=\hspace{3}g\hspace{3}D_\mu \psi
   (F_{\mu\nu})'\hspace{3}=\hspace{3}g\hspace{3}F_{\mu\nu}\hspace{3}g^{-1}

定義10.82 ゲージ場のラグランジアン
   \cal{L}\hspace{3}=\hspace{3}-\frac{1}{4g^2}\hspace{3}F^a_{\mu\nu}F^{a\mu\nu}
また、他の場との相互作用は、通常の微分を共変微分に置き換えたものにする。
これはゲージ対称な理論になる。
これをゲージ理論とかヤン・ミルズ理論という。

注10.83
U(1)対称性(生成子が1つのみで、当然可換)のゲージ理論が量子電磁力学(QED)である。
陽子や中性子クォークとよばれる粒子からできていると思われている。
このクォークはSU(3)理論に従うと考えられている。これをQCDという。
一般のゲージ理論の「正しい量子化」はここでは省略したい。

注10.84
ゲージ理論の共変微分は、一般相対論の共変微分と似た形をしている。
実際、一般相対論は(繰り込み不可能だが)ゲージ理論の一種と考えられる。
ただし、普通のゲージ理論が扱う対称性は座標の変換を伴わず、
「内部空間での変換」などとよばれるのに対し、
一般相対論が扱う対称性は、一般座標変換に対する対称性である。

定理10.85 ヒグスメカニズム
ゲージ対称性が自発的に破れると、南部・ゴールドストーン粒子は現れず、
対応するゲージ場に質量が現れる。

(証明にかわる説明)
南部・ゴールドストンの定理の「古典的」証明(注10.77)では、ラグランジアン
場による2回微分の項が重要だった。  
ゲージ場が入ると、元のラグランジアン
   A^a_\mu A^{a\mu}\hspace{3}\phi^2
のような項がある。
\phi真空期待値 v を持つなら、この項からゲージ場の質量項が現れる。
イメージとしては、「南部・ゴールドストン粒子がゲージ場に食われて、ゲージ場が
質量を持った」という感じだと思う。□

例10.86
電子やニュートリノレプトンという。
レプトンは「SU(2)xU(1)対称性が自発的に破れてU(1)が残るゲージ理論」に従うと
考えられている。これをワインバーグ・サラム理論という。
対称性を破らせるために導入されたのがヒグス粒子で、残ったU(1)が電磁場である。
ヒグス粒子は、いかにも対称性を破らせるためのみに(つまり、無理に)導入した粒子と
いう印象があり、「そういうものはないんじゃないか」という予想を持つ人は多かったが、
2013年にとうとう発見された。
ヒグスメカニズムのためとんでもなく重いベクトル粒子(Wボソン、Zボソン)が現れるが、
これも確かめられている。質量は、陽子の80〜90倍だった。
ベータ崩壊のような低エネルギーの現象ではWやZは見えず、近似理論が成り立つ。
それがフェルミの相互作用理論である。




参考書:
現代的な視点からの場の量子論 ナイア
Field Theory, the Renormalization Group, and Critical Phenomena D.J. Amit
Quantum Field Theory C. Itzykson J. Zuber
場の理論 西島和彦